研究実績の概要 |
これまでにアズレノ[2,1-a]フェナントレンが、トランジスタのp型素子として中程度の正孔輸送特性を示すことを見出している。本年度はこの化合物の類縁体の合成と性能を評価することで、非交互共役系の特異な炭化水素であるアズレン環が、移動度に与える影響の評価を試みた。具体的に合成に成功したのは、構造異性体であるアズレノ[2,1-a]アントラセン、縮環するベンゼン環数を減らしたナフト[2,1-a]アズレン、そしてヘテロ環やアズレン環を複数組み込んだ誘導体である。これらはいずれも、アズレン環の2位の炭素-水素結合の触媒的な直截ホウ素化、鈴木-宮浦クロスカップリング反応、Wittig反応、ビスマス触媒を用いる環化反応により、収率よく合成できた。移動度の評価を行ったが、残念ながらこれらはいずれも有意な正孔輸送特性を示さなかった。このように本研究では、アズレン環の組み込み効果に関する十分な知見を得ることはできなかったが、合成ルートは確定できた。今後、網羅的に誘導体を合成することで、アズレンを骨格に組み込むことの意義や利点を明らかにしていきたい。
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