研究課題/領域番号 |
16K05782
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
南雲 紳史 工学院大学, 先進工学部, 教授 (40246765)
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研究分担者 |
安井 英子 (市川英子) 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (00398900)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マクロライド / エポキシ不飽和エステル / 還元的SN2’反応 / BH3・Et2O / ピペステリドB |
研究実績の概要 |
優れた大員環ラクトン形成法や汎用性の高い鎖状立体制御法が普及したことで、マクロライド合成は成熟の域に達したかに見えるが、それまでにないユニークな化学構造を併せ持つマクロライドが見いだされたこともあり、未だ挑戦的な課題として評価されている。中でもピペステリドBやトルビエルチンCのように、両側を不斉中心に囲まれた三置換Zーアルケンを有するマクロライドは、顕著な生理活性を有するものも多く、合成標的分子として興味深い。 申請者は、最近、エポキシ不飽和エステルをボラン・THF錯体で処理すると、還元的SN2'反応が進行し、2級水酸基と隣接する三置換-Z-アルケンを有するエステル化合物が生成することを見出した。本反応では、一部のエステルがラクトン化後、過剰の還元を受けてジオール、さらにはZ-アルケンが水素化されてしまったような化合物が僅かながら副生する。これらの過剰反応を解決するためには、その引き金となるラクトン化をいかに防ぐかが重要である。 今年度はまず、これらの副反応を解決すべく、エポキシ不飽和アミドを基質とした還元的SN2'反応を検討した。その結果、アミド基は還元されることなく、高収率で三置換Z-アルケンを有する化合物が得られた。次に、この反応を鍵工程としたピペステリドBの全合成研究を検討した。ピペステリドBは海綿Pipestela candelabraより単離された化合物で、トリペプチドとポリケチドが融合した大環状構造をとっている。まず文献既知の方法を参考にしてトリペプチドを合成した。一方、ポリケチド部位に相当するエポキシ不飽和カルボン酸を市販のL-乳酸エステルから合成した。これらをアミド縮合した後に、還元的SN2'反応を行ったところ、目的とする三置換-Z-アルケンを構築することができた。現在、この化合物のマクロラクトン化を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究では、ボランによる還元的SN2'反応をより実用的なものにするため、さまざまな展開をはかるとともに、ピペステリドB、トルビエルチンC、ベンツリシジンXの合成に応用することを目的としている。2016年度では、これらのうち、特にピペステリドBの全合成研究に注力する予定であった。該当年度中に本化合物の全合成は達成できなかったが、トリペプチド部位とポリケチド部位を結合し、その還元的SN2'反応により三置換Z-アルケンを構築することに成功した。残る課題はトリペプチドとポリケチド部位の逆側でマクロラクトン化を行うことであるが、ここでの最適方法が未だ見つかっていない。さまざまな問題を克服して、合成の最終局面まで到達しているので、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度はピペステリドBの大環状構造を構築することで、本化合物の最初の全合成を目指す。 また同時にトルビエルチンCの合成研究を進めていく予定である。本研究では、ラクトン化から始まる一連の過剰反応を防ぐために、まずエポキシジエニルエステルを基質とした還元的SN2'反応を検討しなければならない。この反応が進行すると、三置換Z-アルケンと二置換アルケンからなるスキップジエンが生成するが、これに関してはモデル基質を用いて既に確認している。ただ、その生成物の中に生じた三置換アルケンをはさむ水酸基とメチル基の立体化学は、トルビエルチンのものとは逆配置であった。そこでまず、適当な基質設計などにより、この立体化学に関する問題の解決をはかる。その目途が立つようであれば、実際のトルビエルチンCの合成を進め、それが困難なようであれば、トルビエルチンの8-エピマーを合成する予定である。トルビエルチンCそのものの全合成は未だ報告されていないが、5-エピマーは合成されており、しかもトルビエルチンと同じぐらい強力な抗腫瘍活性を有することが報告されている。したがって、8-エピマー体を合成し、その抗腫瘍活性をそれらと比較することは有意義であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の申請時、幾つかの工程で禁水禁酸素反応が必要であると予想されたために、グローブボックスの購入を予定していた。しかし、該当する反応を先行して検討したところ、グローブボックスを使用せずに解決することができた。そのため、本装置の購入を見合わせた。
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次年度使用額の使用計画 |
他の研究予算が減額されるので、ガラス器具、試薬等の消耗品になるべく充てたいと考えている。しかし、禁水禁酸素反応でグローブボックスがどうしても必要と考えられた場合には、その時点でその購入を考えたい。
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