研究課題/領域番号 |
16K05784
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大洞 康嗣 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50312418)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 触媒・化学プロセス / ニオブ触媒 / 選択的合成 / 環境調和型合成 / 代替金属触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、稀少貴金属資源からの代替金属としてのニオブ化合物に着目し、ニオブ化合物が有する高いルイス酸性ならびに、ニオブ化合物とオレフィン、ニトリルとの間での高い反応性を活かした高効率触媒反応開発を行う。 平成29年度の研究成果としては、触媒量の五塩化ニオブ存在のもと、アルキンとニトリルとの反応において効率的にピリミジンが生成することを見出した。本反応では生成するピリミジンが塩基性を有するため、ルイス酸性を有する五塩化ニオブが反応過程において失活する。そのため、従来法では触媒量の五塩化ニオブを用いた反応は達成されていなかった。本研究では、塩化鉄を添加剤として加えることにより、五塩化ニオブの使用量を触媒量(20 mol %)まで低減化することに成功した。 さらに、本研究では、五塩化ニオブ触媒を用いたアルキンとニトリルからのピリミジン合成反応において添加物として用いる塩化鉄の役割を赤外分光法を用いて解析した。その結果、ベンゾニトリルに対しては塩化ニオブを加えるとニトリルのCN伸縮振動ピークが高波数側にシフトするのに対して、塩化鉄を加えても当該ピークのシフトは見られなかった。一方、ピリミジンに対しては塩化鉄を加えた方が塩化ニオブを加えたときよりもC-N伸縮振動の高波数側へのシフト幅が大きかった。このことによって、本反応においては、塩化ニオブはニトリルを活性化するために有効で、塩化鉄はピリミジンに配位している塩化ニオブと交換することによって、塩化ニオブの触媒再生に働いていることを示唆することが分かった。 さらに、本年度はジインと単純アルケンとの反応において、塩化ニオブ/亜鉛/トリシクロヘキシルホスフィンを触媒として用いることにより、分子内[2+2+2]環化付加反応が進行し、高選択的に二環式シクロヘキサジエンが得られることをあわせて見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題は、既存の稀少貴金属を触媒とした有機合成プロセスからの汎用金属触媒への代替化・高性能化であり、オレフィン類と高い反応性を有する有機ニオブ化合物を用いた高度な合成触媒化技術にある。本研究では、現在までにアルキン、オレフィン、ニトリル類と種々の反応基質を用いた、1,3-シクロヘキサジエン、ピリジン等多くの有用な新反応を見出してきた。とりわけ、従来触媒化に成功していなかった、ニオブ化合物を用いた単純アルキンとニトリルとの反応によるピリミジン合成においては、塩化鉄を添加剤として加えることにより、本研究で初めて触媒化に成功した。また、本研究では赤外分光法による解析によりピリミジン合成における五塩化ニオブのニトリルならびにピリミジンへの配位に関する知見を得ることができた。このことによって、触媒として用いるニオブ錯体の反応基質の活性ならびに触媒の失活に関するメカニズム解明において重要な成果をもたらした。 さらに、これまで選択性の制御が困難であった、ジインと単純アルケンとの反応による分子内[2+2+2]環化付加反応による二環式シクロヘキサジエン合成において、配位子としてトリシクロヘキシルホスフィンの添加が有効であることを見出した。 本年度の研究成果は、ニオブ化合物に種々の添加剤ならびに配位子を加えることにより、これまでにはない新たなニオブ触媒としての機能が発現し、高選択的かつ高性能な合成触媒としてのニオブ化合物の利用法を示した。このことは、ニオブ化合物を用いた触媒化学において、貴金属金属触媒を凌駕する高い触媒活性・性能を有する次世代型金属触媒を創成するという本課題での研究目的を達成するための重要な指針を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ニオブ錯体触媒を用いたニトリルの三量化によるトリアジン合成を目指す。この方法は、トリアジン合成における最も簡便な合成法であるが、従来法では高温、高圧条件下での反応あるいは、強ブレンステッド酸を化学量論量用いる必要があった。本研究では、ニオブ化合物とニトリルの強い親和性を利用して、温和な条件下(反応温度100℃以下)でのニトリルの効率的な活性化によりトリアジン合成を目指す。本研究では、触媒として用いるニオブ化合物のトリアジンへの配位による失活を防ぎ、効率的に触媒サイクルを回転させるために、種々の添加物を加えて反応スクリーニングを行う。添加物として塩化鉄、種々の金属塩、ならびに配位子を加えて反応を行う。 さらに、ニオブ化合物にカルベン部位を導入し、ニオブカルベン種を反応系中で発生させ、オレフィンを用いた閉環メタセシスならびに開環メタセシス重合反応を試みる。メタセシス反応においては、五塩化ニオブあるいはペンタアルコキシニオブ等入手容易なニオブ試薬を原料とした簡便なニオブ-カルベン触媒の調製を行い、実用的なメタセシス触媒反応開発を行う。また、開環メタセシス重合反応については、ノルボルネン等を出発原料として用い、反応の分子量、分散度の制御を行うとともに、立体制御に関する反応スクリーニングを行う。また、添加物が反応に与える効果ならびに、ニオブ金属上の配位子場環境が反応の分子量、分散度、立体構造に与える影響を評価する。 これらの研究を遂行することにより、ニオブ化合物の合成触媒としての有効性、実用性を実証し、ニオブ化合物を触媒とした新物質製造プロセスの開拓に貢献する。
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