研究課題/領域番号 |
16K05786
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
鳴海 敦 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (60443975)
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研究分担者 |
矢野 重信 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 客員教授 (60011186)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大環状ポリマー / ポリマーブラシ / リビングラジカル重合 / 環拡大ビニル重合 / ラジカル環交差反応 / 動的共有結合 / 原子間力顕微鏡 (AFM) |
研究実績の概要 |
リビングラジカル重合のひとつである安定ニトロキシドを媒体とする制御ラジカル重合 (NMP) は、その反応機構が動的共有結合の開裂と再結合に基づくものであり、環拡大ビニル重合に展開できる有力な候補であると考えている。その開発では、重合系の最適化のみならず、生成物の構造解析が鍵を握る。特に、生成物の顕微鏡観察は構造に関する明確な知見が得られ実施は有意義である。平成29年度は新たに2-ビニルピリジン (2-VP) の環拡大重合を実施し、生成物の構造を原子間力顕微鏡 (AFM) により観察した。線状のものが多数であったが、鎖長の長いポリマー鎖では環状のモルフォロジーを有するものが観察された。したがって、本重合系における環拡大リビングラジカル重合の進行および環融合反応の併発が視覚的に実証された。また、大環状ポリマーブラシの合成実験に取り組んだ。環拡大重合によりアセトキシメチル基を有するポリマーを合成した。アルカリ加水分解反応により、ヒドロキシメチル基を有するポリマーに変換した。続いて、これをマクロ開始剤とするラクトン類の開環重合を実施した。生成物のAFM観察では、線状に加え環状モルフォロジーを有するポリマーブラシが観察された。さらに、分子鎖長も一様ではないなど、環拡大ビニル重合系で得られる生成物の構造に関する視覚的に明確な知見が得られた。また、動的共有結合保持率は大きな値であることも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、環状NMP開始剤によるアクリレートの重合を実施し、環拡大ビニル重合の機構に関するデータを収集することを目的としていた。アクリレートの他、モノマーへのNMPへの適応性や生成ポリマーのマイカ基板への吸着性に優れた2-ビニルピリジン (2-VP) の重合を新たに実施した。最終的に生成ポリマーの1分子観察を達成し、モルフォロジーやサイズに関する知見も得られた。また、平成29年度は、大環状ポリマーブラシの合成実験を予定していた。予定どおり、ヒドロキシ基を有する大環状ポリマーを合成した。続いてチタンアルコキシド錯体触媒によるイソシアナートモノマーの重合、すなわちgrafting-from法によるポリマーブラシ化を当初予定していた。しかし、より簡便な方法である有機触媒によるラクトン類の開環重合によるポリマーブラシ化を実施した。これにより目的としていた大環状ポリマーブラシを得た。AFM観察を実施することで、最終的に環拡大ビニル重合系で得られる生成物の構造に関して明確な知見が得られた。以上より研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、大環状ポリマーブラシの合成を引き続き行う。環状モルフォロジーの割合を増加させることを目的として、生成物の高希釈条件下でのラジカル交差環縮小反応を実施する。AFM観察によりモルフォロジーの再構築挙動について詳細な知見を得る。また、環拡大重合における立体障害の影響を調査するため、Grafting-through法による大環状ポリマーブラシの合成を試みる。オリゴ糖型マクロモノマーおよびポリエステルマクロモノマーの重合を推進する。また平成30年度は、環拡大ビニル重合機構の実証を目的として、環状NMP開始剤のみでの反応、すなわちビニルモノマーを加えない系の反応を実施する。すなわち、ラジカル交差環融合反応に焦点を当て、本系における温度依存性や経時変化に関する知見を分子量測定および分光学から得る。Grafting-onto法による大環状ポリマーブラシの合成や側鎖反応型大環状ポリマーの開発にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に研究成果の一部をオープンアクセスのジャーナルに投稿予定であった。しかし現在投稿準備中であり投稿料を使用しなかった。そのため未使用額が生じた。次年度使用額は投稿料にに充てることを計画している。
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