研究課題/領域番号 |
16K05789
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田邊 真 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (80376962)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 白金 / シロール / ニッケル / 環拡大 / 二量化 / ケイ素 / 脱水素反応 |
研究実績の概要 |
ジベンゾシロール、ジチエノシロール等のケイ素を含む複素環化合物は、Si-C結合のσ*軌道とC=C結合のπ*軌道との相互作用により、蛍光発光効率の向上などの特異な電子的状態を生じるため興味深い物質群として注目されている。これらのシロール環を含む高分子化学の研究は炭素-炭素結合形成により生じたπ共役高分子であるが、主鎖にSi-Si結合を含むケイ素高分子材料の研究例はほとんどない。その要因はSi-Si結合の安定性の低さに由来すると考えられる。本研究では、ケイ素高分子の側鎖置換基に平面性芳香環を導入するモノマーを設計し、これを遷移金属触媒で重合したケイ素高分子の合成をおこなう。合成した高分子は側鎖置換基の積層構造によりケイ素高分子の安定化及び電荷移動の向上が期待される。本年度は、新規モノマーとしてジヒドロジチエノシロールの合成を検討し、これを用いてケイ素化合物の脱水素重合反応の開発を検討した。 昨年度までに見出したジベンゾシロールの合成法を参考にして、ジクロロシランを用いた合成法により目的とするモノマーを高収率で得ることに成功した。白金触媒を用いて検討したところ、シロール骨格の強固なSi-C結合切断による環拡大反応が進行し、ジシラシクロヘキサジエン骨格を持つダイマーを与える触媒反応が進行した。溶解度の向上を目的に、ジヒドロジベンゾシロールにアルキル鎖を導入したモノマーを用いて、ニッケル錯体により脱水素重合反応を検討したところ、数平均分子量3000-5000程度の目的とするケイ素高分子を生成したことが分かった。これらモノマーを配位子とする数種類の白金錯体を合成して、反応機構に関する考察を検討した。その結果、ジチエノシロール配位子をもつ白金錯体の構造解析に成功し、ジチエノシロール配位子の電子供与性が低いことなど、従来のジアリールシリル配位子とは異なる特性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究次年度では、ビチオフェン骨格を有する新規モノマー、ジヒドロジチエノシロールを合成した。ジベンゾシロールモノマーの合成と同様に、ジクロロシランを用いて簡便に合成することができた。合成したモノマーは、置換基のないモノマーと溶解度の向上が期待されるアルキル鎖をもつモノマーを合成した。これら2種のモノマーを使用して、ニッケル及び白金錯体による脱水素重合反応を検討した。無置換体モノマーから得た重合体はその溶解性が低く、同定が困難であった。そこで、低重合体の選択的合成を目指したところ、ジチエノシロール骨格の強固なSi-C結合が開列した環化二量体を与えたことが明らかになった。特筆すべき点として、二量体の結晶構造はビチオフェン環の強い分子間相互作用によりπ積層構造を形成し、一軸方向へ配向することが分かった。アルキル鎖をモノマーとした場合には、得られた高分子が有機溶媒に溶解するため、重合反応が進行することが確認された。また、ニッケルや白金以外の重合触媒開発の検討をおこなったが、具体的には、アイソローバル類似の関係性のある鉄錯体を検討したが、重合反応の進行は観測されなかった。本年度では、計画に対して、新規モノマーの合成に至ったが、重合反応への展開が少なく、「研究の進展がやや遅れている」状況である。
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今後の研究の推進方策 |
合成したジチエノシロール二量体は、そのSi-H結合の反応性が低下するため、高分子量の重合体を得ることはできなかった。一方、アルキル基を持つモノマーでは、脱水素重合反応が進行することがわかった。明確な構造決定には至らなかったが、分子量3000程度のポリマーを得ることができた。より高重合度の高分子合成を目指して、遷移金属触媒の重合活性度を向上させることが必要である。これまでの白金やニッケルだけでなく、鉄や銅などの酸化還元活性な遷移金属触媒を用いて、重合反応の開発を目指す。ジベンゾシロールモノマーを含めると、数種類のモノマーを合成することができたので、単独重合だけでなく共重合体の合成も検討する。
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