研究課題/領域番号 |
16K05792
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高坂 泰弘 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (90609695)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ヘミアセタールエステル / 開環重合 / 開環重縮合 / 有機分子触媒 / 動的共有結合 |
研究実績の概要 |
本研究では動的共有結合の一つであるヘミアセタールエステルを有する環状アクリル酸エステルの重合により,易解体性接着剤や生分解性機能材料に応用可能な反応性高分子を得ることを目的とする. 初年度は,当該モノマーの合成法を最適化し,数十グラムスケールでの安定したモノマー合成を達成した.有機分子触媒を用いたカチオン開環重合は単独では進行しなかったが,他のラクトンとの共重合は可能であった.しかしながら,ヘミアセタールエステルの分解を伴う開環重縮合が併発し,生成ポリマーは3つの基礎単位から構成されることがわかった.また,アクリロイル基を含む単位の含有率は10%程度に留まった.この原因を探るため,種々のアルコールと当該モノマーによるモデル反応を検討したところ,当該モノマーは2級アルコールと反応しないことが明らかになった.当該モノマーの開環により生じる成長末端は2級アルコールであるため,単独重合が進行せず,また共重合でも環歪みから予想される以上に低い反応性を示したと考えられる.なお,有機塩基触媒やスズ触媒による開環重合も検討したが,いずれの場合も標的ポリマーは得られなかった. 一般に環状アクリル酸エステルは開環重合しにくいことが知られているため,当該モノマーにチオールをMichael付加した機能化モノマーを合成した.機能化モノマーは単独で開環重合しなかったが,δ-バレロラクトンとのカチオン開環共重合ではポリマーを与えた.このとき,機能化モノマーに由来する単位はヘミアセタールエステルを含まず,選択的に開環重縮合したことがわかった. 以上の研究と時期を同じくして,海外のグループから環状ヘミアセタールエステルのカチオン開環重合は困難とする旨の研究論文が発表された.この論文と上記の結果の比較から,本研究で用いたモノマーが,一般的な環状ヘミアセタールエステルと大きく異なる反応性を示すことが明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,ヘミアセタールエステルを有する環状アクリル酸エステルの合成法の確立と,開環重合を目的とした.前者は早々に合成方法が確立し,安定したモノマー合成を達成した.また,重合結果を受けた対応策として提案した類縁体の合成も検討し,実際に合成可能なモノマーと,当該経路では合成困難なモノマーの判別ができた.開環重合については,単独重合体こそ得られなかったものの,当初から代替案として計画していた共重合に路線を変更することで,ポリマーを得るに至った.アクリロイル基を含む単位の導入率など,改良すべき点は残っているが,初年度の成果としては十分と判断した.また,2年目の計画であった機能化モノマーの重合を前倒しして実施し,これらのモノマーが一般的なヘミアセタールエステルとは大きく異なる反応性を示すことが明らかになった. 以上の成果は,初年度に計画していた範疇を超える内容である.重合に関して,必ずしも理想的な結果ではなく,改良すべき部分を残している点,当初案にあったアニオン的な開環重合について十分に検討できていない点を考慮して,「おおむね順調に進展している」とした.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度には当該モノマーの反応性に関して定性的な知見が得られたが,定量的な評価をする上では,実験点数が十分とは言えていない.2年目は,こうした細かいデータの収集を重点的に行い,これまでの知見を論文としてまとめる.また,初年度には詳しく検討できなかった,求核的な開環重合についても検討する.初年度の成果から,求核種はエステルではなく,ビニル基側に攻撃することが予想されている.低分子化合物を用いたモデル反応を用いて,この点について重点的に検討し,当該モノマーの持つ特異な反応性を明らかにし,開環重合へのフィードバックを狙う. 研究課題は環状アクリル酸エステルに関する内容だが,研究の過程で,ビニル基に対するエステル結合の接続方向が異なる,別の環状モノマーが得られた.このモノマー自体はヘミアセタールエステルを有さないが,反応するとヘミアセタールエステルを生じる,ユニークな構造を有する.研究が順調に進捗しているため,次年度ではこの新しいモノマーについても機能化/重合を検討し,当初案である環状アクリル酸エステルの代替モノマーとしての可能性を検討する.また,当初案にあった環状アクリル酸エステルを開始剤に用いた,ビニルエーテルの環拡大重合についても検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初見込んでいたよりもゴム栓やケッククリップと行った消耗器具の劣化や破損が少なく,更新が不要になり,若干の余剰経費が発生したため.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成29年度請求額と合わせて,物品費として使用する.前述のように余剰金は消耗器具が予想以上に劣化しなかったためであるが,長年の使用により負荷はが蓄積しており,寿命は近づいているため,これらの更新に使用する.
|