研究実績の概要 |
前年度までに環状アクリルモノマー (2,6-dimethyl-5-methylene-1,3-dioxan-4-one; DMDO)の開環重合に成功したが,重合度が増加しない問題があった.今年度はε-カプロラクトンとDMDOの共重合について検討し,重合度,共役エステル含有率を従来技術より大幅に向上させることに成功した.生成ポリマーをチオールで処理すると,共役エステル骨格のみが選択的に分解することがわかった. しかしながら,DMDOの完全な制御重合には至っておらず,特に分子量が数万のポリマーが得られない点については,課題として残っている.そこで,環状ヘミアセタールエステルの開環重合を専門とするProf. M. Shaver(マンチェスター大)にDMDOを提供し,金属触媒を用いた開環重合の実現を共同研究として進めた.DMDOの重合は困難であったが,構造を一部改良したモノマーを用いて,ポリ共役エステルの精密合成を達成した.
一方,DMDOのヘミアセタールエステル部位はビニルエーテルのカチオン重合開始剤としても機能することが期待され,環拡大を経てビニル基を有するマクロ環が得られると予想される.そこで,この重合の先駆者である大内誠先生(京都大学)にDMDOを提供し,開始剤系の最適化を経て,マクロ環の合成に成功した.
環状ビニルエステル (2-methylene-4H-benzo[d][1,3]dioxin-4-one; MBDO) のラジカル重合体について,DOSYスペクトルにより主鎖分解をリアルタイムに計測し,分解が末端からの解重合ではなく,内部からの主鎖切断を経た機構で進行することを突き止めた.また,カチオン重合についても検討し,ビニル重合と開環重合が競争することを見出した.特に,低温では開環重合が優勢になり,1,3-ジカルボニル骨格を含む単位が生成した.
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