研究課題/領域番号 |
16K05800
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
東 信行 同志社大学, 理工学部, 教授 (10156557)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | アミノ酸由来ビニルポリマー / 温度応答性コポリマー / 下限臨界溶液温度 (LCST) / 表面ATRP重合 / 細胞シート |
研究実績の概要 |
本研究の主な目的は、天然アミノ酸由来のビニルモノマーの系統的合成と高分子化ならびにそれらビニルポリマーの機能特性とくに外部刺激応答性を検討して、新たなスマート高分子材料の創成を提案することである。天然の構造タンパクの一種であるエラスチンは、その名の示す通り粘弾性を示し、また熱に応答して極性状態を変えるなど興味深い特性を有している。しかしながらエラスチンないしはエラスチン類似ペプチドを人工合成するためには、多くの労力と時間を要し、大量合成も至難の業である。そこで本研究では、天然タンパクを見習って、アミノ酸由来ビニルモノマーの重合により、簡便に大量に高分子化するという発想のもと、高い安定性と機能性をもつ生体適合型高分子材料の創成を期待した。 H29年度は、前年度で得た知見をもとに、アミノ酸由来ビニルポリマーの系を溶液から固体表面に展開し、新しいスマート表面の調製を目指した。具体的には、アミノ酸由来ビニルポリマー・ブラシをガラス基板上に調製し、その温度応答性の検討ならびに細胞培養基材への応用を試みた。その結果、温度上昇に伴って表面が疎水化するLCST型の温度応答挙動を示した。次にこれら基板上でマウス由来繊維芽細胞を培養したところ、生細胞が多く観察され細胞毒性をほとんど有していないことが判った。さらに、コウシ血清入りの培地中で24 時間培養した後に4 °C の緩衝液に基板を浸漬させると細胞はシート状に剥離した。また、ポリマーのアミノ酸種(転移温度)により剥離温度も可変可能であることが明らかになった。これらの結果は、細胞シートの種類に応じた剥離温度が選択できるという、再生医療の観点からもきわめて重要な成果と考えられる。 今後は、今年度実施に至らなかった3次元ハイドロゲル内部での細胞培養の有用性について重点的に研究を進めていくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は、当初予定した目的のジブロックポリマーの系統的(ポリAlaとポリβ-Alaのそれぞれのセグメントの鎖長比を変えたものの)合成に成功した。これらブロックポリマーの水中での熱応答挙動を濁度の測定により検討したところ、それぞれ単独のポリマーには認められないUCST型転移が2つのLCST転移の中間に現れるという、興味深い現象を見出した。様々な手法を用いてこの現象を解明した結果、昇温過程で、比較的緩やかではあるが巨大な会合体を形成した後、一旦ミセル形成を経て、より巨大な凝集体へと変化するというメカニズムを提案した。 H29年度は、前年度実施できなかった固体表面からアミノ酸由来ポリマーブラシを調製し、本年度の主要課題である熱転移現象や細胞足場材としての有用性を検討した。まず、固体基板としてガラスを選択し、表面開始ATRP 法により様々なアミノ酸由来ポリマーブラシの調製に成功した。熱転移現象は液中気泡法により評価したところ、転移温度は水溶液状態と変わらないことが判明した。これらアミノ酸由来ポリマーブラシが細胞毒性を示さないこと、また培養した細胞シートがブラシ相の転移温度を利用して剥離回収できることを明らかにした。このように、当初の計画はほぼ実施できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には交付申請書に記載の実施計画にそって進めていく予定である。具体的な推進方策は次のとおりである。 (1)前年度までに得た各種アミノ酸由来ポリマーの分子構造と相転移現象の相関に関する知見をもとに、ハイドロゲルの形成を目指す目的から、ABA型トリブロックポリマーの設計・合成を行う。水中での感温特性を検討して、集合構造や凝集形態を明らかにする。 (2)ハイドロゲルの形成条件を検討して、生成したハイドロゲルの各種物性測定を行う。ゲル化が生じない場合には分子設計を見直して、再度合成を行う。ハイドロゲルのレオロジー測定を実施して、自己修復性やインジェクタブル特性を明らかにする。最後に、細胞の足場材としての有用性を検討する。
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