本研究の主な目的は、天然アミノ酸由来のビニルモノマーの系統的合成と高分子化ならびにそれらビニルポリマーの機能特性とくに外部刺激応答性を検討して、新たなスマート高分子材料の創成を提案することである。例えば天然の構造タンパクの一種であるエラスチンは、粘弾性を示すのみならず、熱に応答して極性スイッチングなど興味深い特性を有している。しかしながらエラスチンそのもの、ないしはその類似ペプチドを人工合成するためには、多くの労力と時間を要し、しかも大量合成も容易ではない。本研究では、天然タンパクを見習って、アミノ酸由来ビニルモノマーの重合により、簡便に大量に高分子化するという発想のもと、高い安定性と機能性をもつ生体適合型高分子材料の創成を期待した。 まず、初年度は、転移温度(LCST)の大幅に異なるアミノ酸由来ビニルポリマーよりなるジブロックポリマーの精密合成にRAFT重合法を用いることにより成功した。温度応答性を検討したところ、昇温過程の途中でミセル形成を伴う特異な相転移現象を示す事を明らかにした。 次年度においては、この系を固体(ガラス)基板上へと展開して、熱転移現象や細胞足場材としての有用性を検討した。具体的には、表面開始ATRP法により様々なアミノ酸由来ポリマーブラシの調製に成功した。これらポリマーブラシの転移温度は、水溶液状態と良く対応している事が判った。また、ポリマーブラシは細胞毒性を示さず、培養した細胞シートが転移温度を利用して剥離回収できる事を見出した。 最終年度は、本系を刺激応答型のハイドロゲルへと応用したところ、インジェクタブルゲルとしての機能(注射器で体内への注入が可能で、注入後再びゲルになる機能)を発現し、細胞培養のための3次元足場としても、また細胞含有状態でのインジェクタブルゲル機能(細胞を活かした状態での体内注入)へも適用可能であることを明らかにした。
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