研究課題/領域番号 |
16K05807
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
横川 雅俊 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50447885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表面増強ラマン散乱 / バイオセンサ / BioMEMS / 微生物 |
研究実績の概要 |
本研究では、少数の細胞、極限的には単一の細胞についての挙動・傾向を迅速かつ高感度で分析することを目的に、微小流体を取り扱うマイクロフルイディクスを基礎として、微小な細胞培養空間における溶液の操作技術、電気制御による一括した細胞の破砕技術、そして微量溶液中の化学物質の高感度センシング技術を新規に開発する。具体的には、1,000,000個を越えるpLオーダーのチャンバーアレイを配置したデバイスを作製し、水処理施設の活性汚泥中に含まれる発電微生物の活性、及び各種シグナル物質や抗生物質の与える影響を網羅的に評価し、高い発電能力・有機物処理能力・耐性を有する微生物の探索システムを構築する。 28年度は、センシング技術の要となる金属ナノギャップ型光アンテナ(ONA)の作製と細胞の単離培養を目的としたチャンバーアレイデバイスの試作を行った。まず、金ナノロッドに関しては、シード法で合成する際に加える硝酸銀濃度を調整することでその大きさやアスペクト比を自由に調整する事が可能であり、その分光学的特性から長軸方向に由来する表面プラズモン共鳴が600 nmとなる構造を採用した。これを、金-チオール反応を利用した化学修飾を介して互いに連結することでONA構造を作製した。ONA構造化した金ナノロッドにおいては、単独のものと比して100倍以上強いラマンシグナルが得られ、ナノロッドの高次構造形成・崩壊を指標としたセンシングの基本原理を確認する事が出来た。一方、デバイスに関しては、微生物を単離・培養するための微小空間としてシリコーンゴム製の基板上に直径100 umの微小チャンバーをアレイ状に配置したもの作製した。また、微生物試料の取扱いを容易にするため微生物を包埋したマイクロゲルカプセルを作製し、これをデバイス内のチャンバーへと導入するシステムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度の研究計画においては、効率的かつ厳密に構造を制御したONA構造の作製を目指し、マイクロスケールのシリカビーズを担体とし、その表面で金ナノロッド鎖の固相合成を行い、最終的に合成されたONA構造を化学処理により分離・回収する方法の開発・最適化を計画していた。金ナノロッドの鎖長・配列を制御して合成する点においては期待通りの結果が得られたが、金ナノロッドをシリカビーズ上に高密度に担持させることが依然として困難であり、これが収率向上のボトルネックとなっている。この点については、29年度も引き続き検討を重ねていく。一方、ナノロッド鎖の鎖長を厳密に制御することは出来ないが、簡便にONA構造を作製することの出来る溶液中での重合法も平行してとりいれ、表面増強ラマン散乱実験等に用いている。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、開発が遅れている金属ナノロッド鎖固相合成法の確立を継続して進めて行く。平行して、光ナノアンテナ(ONA)を利用した超高感度レドックスセンサの開発及び評価を行う。ONAは、Au-S-R結合を介して連結された構造であるため、その還元脱離によりONA構造の分割、すなわち、ナノギャップ構造が消失する。このような環境中の電気化学的性質に従った自立的なONA構造の消失過程を利用することで、顕著なSERSシグナルの変化を誘起し、極微量な還元物質のリアルタイム高感度検出を試みる。 デバイスに関しては28年度に先行して進めており、それを引き継ぐ。特に、物質透過性を備えたマイクロゲルカプセルの利用は、微生物試料の取り扱い(コンタミ予防や格納)を容易とするため、当初の計画には含まれていなかったが積極的にその開発を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
金属ナノロッド鎖固相合成法の開発が遅れ、それに続くナノアンテナを包埋したナノゲルシートの作製や評価を十分に進めることが出来なかったため。また、電子顕微鏡観察など、一部の実験は、学内の共通機器やナノテクノロジープラットフォーム事業(文部科学省)の支援を受けることで、想定していたよりも安価に研究を進めることが出来た。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に十分に進めることの出来なかったナノアンテナ関係の実験を早急に進めていく。特に、ナノアンテナ構造作製の各ステップにおいて電子顕微鏡等でその状態を逐一確認し、開発にフィードバックすることで、効率的に研究を進めていく。
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