研究課題/領域番号 |
16K05808
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
齋藤 伸吾 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60343018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DNAアプタマー / 細胞 / キャピラリー電気泳動 / in vitro選抜 |
研究実績の概要 |
ある特定の分子を認識可能なDNAをDNAアプタマーといい,抗体に代わる分子認識素子として注目されている。DNAアプタマーを得る進化工学手法としてSELEX法(in vitro selection法)が知られているが,動物細胞や細菌に対するSELEX法は1~数ヶ月もの長時間を要し,かつ高アフィニティーのアプタマーが得られるとは限らないといった欠点がある。本研究の目的は,キャピラリー電気泳動法(CE)を基盤として,細胞(粒子系)とDNA(分子系)の高度な濃縮-分離-分取を達成することで,動物細胞・細菌・ウィルスに対して高いアフィニティーを有するDNAアプタマーを数日~一週間以内で確実に獲得できる新規方法論を確立することである。 これを達成するために,本年度はランダムな配列を有するDNAの集合体(ランダムDNAライブラリー)とターゲット細胞(がん細胞や細菌類)との混合試料中から,細胞-DNA複合体(粒子系)および非結合型DNA(分子系)をそれぞれの単一ピークとしてCEで濃縮-分離し,DNAアプタマーが細胞と結合した細菌-DNA複合体ピークだけを精密に分取する技術を確立した。これにより,ライブラリーの中から細胞に結合し,かつ解離反応を起こし難いDNAアプタマーだけを高速(数十分)に選抜可能となった。 細菌細胞に対してはアプタマーの選抜に成功し,細菌種や細菌株の違いを認識するDNAアプタマーの選抜が可能であることが明らかとなった。さらに,動物細胞のCEによる濃縮-分離法を開発し,動物細胞とDNAの濃縮-分離-分取を可能とし,ヒト肺腺がん細胞株PC9に対する選抜を行い,選抜したDNA群ががん細胞に結合することの確認を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,細菌細胞に対するDNAアプタマーの選抜と得られたアプタマーの評価を行う予定であったが,これらを予定通りに完了することが出来た。さらに動物細胞に対するCEによる濃縮-分離法の開発も予定に入れていたが,これにも成功し,DNAアプタマーの選抜に成功している。今後は得られたアプタマーの配列および結合特性を詳細に調査する予定である。 このように課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は細胞表面に発現した特定の分子を選択的に認識するアプタマーの選抜法の開発に着手する。この方法論が確立できれば様々な膜タンパク質,チャンネル,糖鎖などの生体認識・シグナル制御の本質を担う分子のセンシングプローブが開発できると考える。具体的には,敗血症などを誘引する大腸菌表面のリポ多糖(LPA)を欠損させた株JW3065や正常動物細胞に対してPectI選抜を用い,ここでは非結合型のDNAピークを回収する(カウンター選抜と呼ばれる)。この新しい回収プールを,今度はLPA発現株(BW23115)に対して選抜することでLPAに特異的に結合するアプタマーの選抜が可能となると考える。この様なCEを使った高速選抜手法を幾つかの細胞に対して実施し,方法論として確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,購入計画をしていた設備備品(倒立位相差顕微鏡)を大学校費で購入し,また,研究成果を出している途中だったため,国際学会にも参加しなかった。そのため使用額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画通りにレーザー,DNA関連消耗品やキャピラリー電気泳動用消耗品に当てる予定である。特にCE装置の消耗が激しいため,H29年度に修理をする可能性が高く,この部品費に当てる予定である。また,H28年度の研究結果を論文に投稿する予定であるので投稿費用にも当てる。さらにH28年度に国際学会で発表予定であったものをH29年度あるいはH30年度に国際学会で発表する予定である。
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