研究課題/領域番号 |
16K05810
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
遠田 浩司 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (60212065)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 血糖値センサー / 差分検出法 / フォトクロミズム / 光リセット / 光応答性ゲル / オプティカルグルコースセンサー |
研究実績の概要 |
低浸襲的に皮下間質組織液中の血糖値をモニターできるウェアラブル光学センサの精度の向上を目指した,フォトクロミズムによる応答のon/off差分検出に基づく高精度糖センシングシステムを開発することを目的とし,スピロピランに基づく高分子ゲルフィルムを合成し,光リセット能の評価を行なった。しかし調製した高分子ゲルはpH 4.0以下の酸性条件下でしか光異性化を示さず,中性pH領域で作動する糖センサ用光リセット高分子ゲルとしては適さなかった。そこで平成29年度は,中性pH領域で光異性化を示す高分子ゲル構築を試みた。 1.中性pH領域で作動する光リセットゲルフィルム構築のためのモノマー組成の検討:中性pH領域で光異性化するゲルフィルムを得るために,重合性スピロピランとメタクリル酸を共重合した酸性度の高い光リセットゲルフィルムを調製した。このフィルムはPBS (pH 7.4)中で,青色光照射によってスピロピランへ異性化し, 5分程度でメロシアニン型へ自発戻りすることが分かった。しかし,このゲルフィルムを1日PBS溶液中で保存すると,PBS中電解質イオンによるイオン交換のためフィルムの酸性度が低下し,中性pH領域での光異性化が見られなくなった。 2.中性pH領域で光異性化可能な新規スピロピランの合成:中性pH領域で光異性化可能なスピロピランを設計するためには,中性pHでのメロシアニン開環体のプロトン付加が必要である。そこでフェノールよりpKaの大きいピリジン環を分子内に含む新規スピロピランの合成を行なった。得られたピリジンスピロピラン誘導体は,PBS (pH 7.4)中で緑色光照射によりスピロピランへと異性化し,光照射終了後速やかにメロシアニン体に自発戻りすることを見出した。これにより,糖センサ用光リセット高分子ゲルの開発へ大きく前進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度研究計画として,フォトクロミズムによる応答のon/off差分検出に基づく高精度糖センシングシステムの開発のための1)スピロピランを組み込んだ高分子ゲルフィルムの光リセット能の評価,2)酵素とpH感受性色素に基づくグルコースセンサへの光リセット能の付加を挙げている。 1)に関しては,中性pH領域で光異性化,自発戻りをするピリジン基を有する新規スピロピランの合成を完了している。また,このスピロピランに重合性官能基を導入することにも成功している。 2)に関しては, 酵素とpH感受性近赤外吸収色素をクリック反応により高分子ゲルフィルムに固定化し,これを透過性制御膜で覆った形のグルコースセンサの開発は既に完了しており,現在,開発したピリジンスピロピランを酵素と近赤外吸収色素固定化高分子ゲルフィルムに組み込む条件を検討している。また,開発したピリジンスピロピランのメロシアニン型色素のpKaは,6.8及び3.2であり,pH感受性近赤外吸収色素の代わりにピリジンスピロピランを用いた,直接光リセットが可能なグルコースセンシングシステムを開発中である。 以上の理由で,本研究は概ね当初の計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
光リセット能を有する酵素/pH感受性収色素に基づくグルコースセンサの開発:センサ応答リセット用ゲルフィルムに酵素/色素固定化用のグリシジルメタクリレートを含む単官能性モノマー溶液を含浸させ熱重合した後,クリック反応を用いてアルキニル基を有するグルコース酸化酵素とBODIPY色素を固定化し,透過性制御膜で覆うことにより光リセット能を有するセンサを構築する。構築した光リセット能を有するセンサを,種々の濃度のグルコースを含む溶液に浸し,波長540 nmのレーザー光照射をon/offしながら,740 nmのセンサからのシグナルをモニターする。外部迷光の強度を変化させながらセンサ応答のon/off差分を測定し,光異性化によるセンサ応答のリセット速度,自発戻り速度とセンサ応答速度,再現性,繰り返し精度,外部迷光の影響について詳細に評価する。 光リセット能を有するレセプター/色素複合体を架橋点とするグルコースセンサの開発:我々が既に開発しているビスベンゾボロキソール型グルコースレセプターとレセプター感受性色素複合体を架橋点とするセンサにスピロピランを共重合することにより組み込み,ゲルの光異性化による収縮によってセンサ応答をリセットすることを試みる。このセンサは,架橋点のレセプターとグルコースとの錯形成により,架橋点が減少しゲルが膨潤して応答シグナルが増幅されるが,光照射によるメロシアニン型から極性の低いスピロピラン型への異性化による疎水性の増大によりゲルが収縮し,ゲルの膨潤により解離していたレセプター/色素複合体が元に戻ることにより,センサ応答がリセットできるものと考えている。フォトクロミズムによるセンサ応答のon/off差分を測定し,光学的バックグラウンドの変動に対するセンサ応答精度を詳細に評価し,研究を取りまとめる。
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