研究課題/領域番号 |
16K05813
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金 継業 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (40252118)
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研究分担者 |
高橋 史樹 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (40754958)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電位変調電気化学発光計測 / 超音波キャビテーション / 電気化学発光量子収率 / 超音波化学発光 / 薬物検出 |
研究実績の概要 |
H29年度では,電位変調電気化学発光 (potential modulated Electrochemiluminescence, PMECL)の計測システムを構築し、超音波照射下におけるECLの基礎とその応用について検討を行った。研究の概要は以下の通りである。 1) PMECLは、電極に印加する電位を周期的に変化させながら,交流電圧に同調した発光シグナルをロックインアンプにより検出する方法である。トリス(2,2-ビピリジン)ルテニウム(Ⅱ) 錯体Ru(bpy)32+とルミノールを用いるECL反応を検討した結果、PMECLの電位分解能と感度が著しく向上し、特にソノルミネッセンスに由来するバックグラウンドシグナルを効果的に除去できるため、超音波ECL計測のツールとして、その有効性を確認できた。 2) 化学的作用の高い430 kHzの超音波反応場の中で、麻酔薬であるリドカインを共反応物とした[Ru(bpy)3]2+のECL反応を検討したところ、+1.2 V vs. Ag/AgCl付近の発光強度とECLの量子収率(電気分解過程において単位クーロンの電気量で放出した光子と定義している)は超音波の照射により増大した一方、静止のときに観測された+1.5 V付近の発光シグナルが見えなくなった。超音波照射によりリドカインが2,6-キシリジンに分解されたことをGC/MSにより確認され、その反応中間体は [Ru(bpy)3]2+の酸化体である[Ru(bpy)3]3+との後続化学反応により、励起状態の*[Ru(bpy)3]2+を生成したと考察している。超音波キャビテーションは電極経路を変更させることが可能と考えられ、キャビテーションにより生成した有機ラジカル中間体はPMECLで検出されたことを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波反応場の中でECLを計測する場合、キャビテーションからの微弱発光信号はECL信号を妨げる可能性が考えられる。研究実績の概要で述べたように、PMECLの計測システムを完成したことによって、これらのバックグラウンド信号を分離できるECLの計測を可能にした。 超音波のキャビテーションでは、常温,常圧下において水を熱分解し、ヒドロキシルラジカル(・OH)と水素ラジカル(・H)を生成する。430 kHzの超音波によりリドカインのような薬物が分解され,生じたラジカル中間体をECLで検出されたことが示唆され、本研究で提唱した、キャビテーション誘起したECL計測法の実験的なエビデンスを得ることができたので、本年度の研究目標は概ね達成していると判断した。 ただし、430 kHzの超音波による音響キャビテーション効果は、電解セルの形状、溶液の体積、電極の位置などによって大きく依存され、再現性を欠いた問題がある。来年度の実験計画の中で、よりシンプルで、再現性の高い超音波電気化学発光(Sono-ECL)セルの開発が必要となる。 その他、超音波のキャビテーションを利用して、金ナノ粒子/グラフェンの機能性複合ナノ材料の調製に成功し、環境水中の六価クロムを分析するための電気分析センサーの開発も行った。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の実験結果を基にH30年度に以下の実験を行う予定である。 1) 超音波誘起したECL計測法の確立と農薬や薬物分析への応用。 [Ru(bpy)3]2+の他に、ルミノールやルシゲニンなどECLのプローブを用いて検討する。ここでは、電気化学的不活性目的成分を超音波キャビテーションで分解し,生じたラジカル中間体をECLで検出し,ECL分析範囲の拡大を図る。 2) バイポーラ超音波電気化学発光セルの設計と炭素微粒子分散系のECL計測システムの構築 バイポーラ電気化学は、導体が外部電源と接触せずに電解液の中で電気化学反応を取り扱っており、数十ミクロンの炭素微粒子を電解液中に分散させれば、これらの微粒子が個々の微小バイポーラ電極(BPE)として機能することができる。ここで、超音波で炭素微粒子を安定に分散させ、BPEの電気化学反応をルミノールのECLの信号として検出し、新規電気化学センシングデバイスのプラットフォームの構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、日程上の都合で予定していた国際会議の参加を見送ったため費用は予定よりも少なくなった。
繰り越した金額は次年度の国際会議の参加旅費や収束型超音波振動子の購入費用として、平成30年度請求額と合わせて支出予定である。
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