研究課題/領域番号 |
16K05820
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
菅原 一晴 前橋工科大学, 工学部, 教授 (30271753)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 擬似糖質ペプチド / 電子伝達性ペプチド / ペプチド標識タンパク質 / タンパク質間相互作用 / Hisタグ |
研究実績の概要 |
電子伝達性擬似糖質ペプチドを修飾した磁性ビーズをツールとしてガラクトース認識タンパク質の電気化学的センシングを実施した。このツールの特長は、固定化したペプチドが電極応答を示しつつターゲットタンパク質を分子認識するという2つの機能を有していることである。基本的ペプチド配列はチロシン残基から成りC-末端にはシステイン残基を結合したペンタ‐、ヘキサペプチドである。その配列の一部にはアラニンやセリンを導入したペプチドも調製しタンパク質に対する選択性および測定感度を評価した。ガラクトース認識タンパク質として大豆由来レクチンをモデルとしたところ、架橋剤を介してチロシン残基を4残基含むペンタペプチドを導入した磁性ピーズにおいて高機能性を示すことを見出した。アラニン、セリン残基の効果としては親水性を高める導入位置によって測定感度を左右するものであった。また、磁性ビースはタンパク質を濃縮することができ、再生可能なツールとしても有用であった。それゆえ、考案した電気化学的測定システムはガラクトース認識タンパク質のシンプルで簡便な測定手法となるものである。 糖タンパク質にHisタグ―電子伝達性ペプチドを導入したプローブタンパク質を作製して、ターゲットタンパク質との相互作用の電気化学的モニタリングとセンシングを試みた。糖鎖の末端にガラクトースを有しているアシアロフェツインのN-末端あるいはリジン残基にHisタグ―電子伝達性ペプチドを結合させることでプロ―ブタンパク質とした。ターゲットタンパク質には大豆由来レクチンを選択した。アシアロフェツインはターゲットタンパク質と反応させることで、ガラクトース認識による相互作用をもつ。結果として、Hisタグ―電子伝達性ペプチドはタンパク質間相互作用からの影響を受けることから電極応答が変化するものであり大豆由来レクチンの検出が容易に達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガラクトース認識タンパク質を検出するための電子伝達性擬似糖質ペプチド固定化磁性ビーズを構築することで次のような知見が得られている。ヒト血清中にターゲットタンパク質を添加した場合、その回収率は100%前後であり共存物の影響が小さいことが分かった。また、修飾したペプチドとの結合によってビーズ表面への選択的な濃縮によりターゲットタンパク質の高感度な測定が可能となった。ビーズに結合したタンパク質は尿素などの変性剤を添加することで、容易に除去され5回程度、再利用できるものであった。ペプチド配列に関する情報についても、ペンタ‐、ヘキサペプチドにおけるアラニン、セリンの導入位置によりペプチドの特性が変化することを明らかにしている。さらには、ペプチドを磁性ビーズにペプチド修飾する際の架橋剤ならびにビーズの粒径の差異による電流値への効果についても考察しており、タンパク質センシングのための新たな取り組みとなっている。 Hisタグ/電子伝達性ペプチド導入糖タンパク質をセンシングプローブとして考案し、糖タンパク質の糖鎖と結合するターゲットタンパク質を電気化学的に測定する手法は新規性の高いコンセプトになっている。金属イオンや補酵素を有する酵素、シトクロームなどを除いて酸化還元部位を有するタンパク質は稀である。今回、提案したHisタグ/電子伝達性ペプチド導入糖タンパク質は糖質とアミノ酸残基から構成されておりシンプルなセンシングプローブである。その観点から、多くのタンパク質へのラベルとしての幅広い展開が期待できる。 これらの成果は平成29年度に計画にしたがって進めてきたものであり、本プロジェクトはおおむね良好に進展している。次年度もプローブタンパク質の特性や機能について継続して研究を展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究計画としてHisタグ/電子伝達性ペプチドを修飾したプローブタンパク質において、導入されたペプチド数やペプチドの結合部位に関しての解析を行う。タンパク質に対するペプチド結合数についてはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析により測定を実施する。タンパク質への結合部位に関してはリシン-NプロテアーゼやAsp-Nプロテアーゼ、キモトリプシンなどを用いたペプチドフラグメントに切断した後、エレクトロスプレーイオン化法による質量分析によりその同定を行うものである。アシアロフェツインの解析を進めるとともにアシアロフェツインと相互作用するガレクチンへの適用も視野に入れている。 一方で、これまでの知見・情報を考慮して細胞センシングのための電子伝達性擬似糖質ペプチドプローブを開発する。最初に、ガラクトース認識タンパク質または糖タンパク質を固定化した磁性ビーズを作製する。溶液中にはガラクトース認識タンパク質修飾ビーズ、ペプチドプローブ、糖タンパク質を競争反応させることでビーズの挙動を電気化学的に評価する。加えて、糖タンパク質固定化ビーズ、ペプチドプローブ、ガラクトース認識タンパク質をインキューベーションし、ペプチドプローブの電極応答の変化からガラクトース認識タンパク質と糖タンパク質との相互作用をモニタリングする。磁性ビーズは細胞のモデルでありペプチドプローブの有用性を見出すために使用する。ガラクトースを細胞表面の糖鎖の末端にもつ細胞(糖タンパク質修飾ビーズに対応)そして細胞表面にガラクトースレセプタを発現している細胞(ガラクトース認識タンパク質修飾ビーズに対応)を対象とする。予想される成果としては、上記の競争反応に基づいて電子伝達性擬似糖質ペプチドプローブの酸化応答がに基づいた細胞センシングシステムを構築できることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
13万円強の予算は実験に使用したペプチド、タンパク質等が平成29年度の予定金額に比較し低額であったために生じた。平成30年度は上記予算を酵素などの試薬の購入にあてる予定である。
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