研究課題/領域番号 |
16K05823
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
竹井 弘之 東洋大学, 生命科学部, 教授 (40520789)
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研究分担者 |
岡本 隆之 国立研究開発法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 専任研究員 (40185476)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 残留農薬 / 迅速検出 / 表面増強ラマン分光法 / 貴金属ナノ構造 / 粘着テープ |
研究実績の概要 |
SERS基板を農作物表面に接触させる際、ナノ構造への損傷および剥離の抑制が重要である。2016年度初頭には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面を化学改変し、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を介して、シリカナノ粒子を吸着する手法を用いていたが、剥離が懸念されたことから新しい手法を試みた。スライドガラス上にシリカナノ粒子を単層として形成し、粘着テープを押付けることにより、シリカナノ粒子をほぼ100%テープ表面に転写し、さらに真空蒸着することによりテープ表面に貴金属ナノ構造を形成させることができた。増強効果を有することが確認でき、PDMS表面に形成した場合と比較し、均一性および強靭性に関して明確な向上が認められた。粘着テープを用いるこの方法は研究の計画段階では想定していなかったが、最終目的の実現には有効であることを実証できた。但し、ガラス基板上に形成された同様なナノ構造体と比べると、増強率が若干劣ることが判明した。異なる粒径の粒子(100, 200, 400 nm)を用いて作製したサンプルを比較したところ、粒径400 nmでの結果が最も良好であった。これらSERS基板の評価においては、ローダミン6G(R6G)をモデル分子として用いた。また、一部の実験においては、R6G溶液をみかん表面に噴霧させ、SERS基板を押付けることによってR6GのSERS信号を確認することができた。 また、ナノ銀樹の作製条件についても新しい知見を得ることができた。置換反応のシードとして用いた帽子状銅ナノ粒子の厚さは、ナノ銀樹の形態に影響を及ぼすことが判明していたが、今回は厚さを連続的に変化させたものを作製し、条件を網羅的かつ一括で比較することができた。また、置換反応の温度依存性を調べた結果、4℃ではフィラメント構造の成長が抑制されたが、SERS効果が維持されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
若干の遅れが生じている。作製されたナノ銀樹の光学的評価として暗視野観察を予定していたが、上述した粘着テープ方式のプロトコールの開発および関連特許の申請用データの取得を優先させたため、本格的には着手できていない。しかし、粘着テープ方式のSERS基板では、均一性および再現性が大幅に向上したことから、平成29年度中には遅れを取り戻すことができ、3年間の期間で考えると計画した以上のことを成し遂げられることになると考えている。また、FDTD法によるシミュレーションについても計画したほど進捗していないが、物理的パラメータを少しづつ変えて作製した多くのサンプル全てに対してシミュレーションを闇雲に実施するのではなく、実験的にある程度最適化が終了したものに対して、より高精度なシミュレーションを行うことで、最終的に有効なナノ構造を実現する方針を反映しており、平成29年度には、遅れを取り戻せると考えている。また、置換反応における反応温度依存性を検討した結果、新しいナノ構造が得られたので、より多くのナノ構造体をシミュレーションの対象にすることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
粘着テープは基板として有望であり、強靭性および均一性に関してこれ以上優れた素材の入手は不可能と思われることから、このアプローチに注力しパラメータの最適化を予定している。既に着手した内容であるが、テープのブランド、シリカナノ粒径の粒径、蒸着厚の検討範囲を拡大して、SERS基板の特性の改善を目指す。また、増強率の向上のみならず、懸念されていた粘着テープ自体のSERS信号および蛍光バックグランドの抑制も重要な課題となる。初年度において、複数メーカのアクリルテープを比較したところ、明確な違いが確認され、最も良好なテープを選択することによりSERS効果の実現とバックグランドの抑制が同時に可能であることが判明した。 また基板評価方法の再検討が必要であることが再認識された。SERS基板の評価には、測定対象物を基板に直接滴下する方法および対象物が滴下された農作物表面にSERS基板を押付ける方法の2通りがある。今回は、評価の再現性を担保するために主に前者の方法の条件を見直しつつ、後者の方法の条件をより厳密にする予定である。通常、SERS基板に測定対象物を滴下し、一定時間浸漬させた後に洗浄もしくはブロードライにより基板を乾燥させるが、測定対象分子と貴金属ナノ構造体間の親和性によっては新たな評価方法を探索する必要がある。接触式測定評価においては、SERS基板と柑橘類表面の接触条件の検討に着手する。主に接触力および接触時間に対する依存性の検討である。その際、比較のための擬似柑橘類表面の相当する人工物を用意し、より定量的な比較評価を予定している。 ナノ銀樹作製に関して、成長温度に対する形態の依存性が確認できている。4℃での反応においては、フィラメント構造の成長が抑制されるが、ほぼ同等のSERS効果が得られることが判明した。FDTD法によって原因を究明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者が担当しているFDTDシミュレーションに必要なナノ構造の形態情報は、ドイツのビーレフェル大学に提供してもらっている。先方に送ったほとんどのサンプルに対しては、HIMのデータを送り返してもらったが、年度末になりHIMが不調となり、一部のサンプルに対しては十分に高精度の形態情報が間に合わなくなってしまった。不完全なデータに基づいてシミュレーションを行うのではなく、HIMの修理が完了してから、シミュレーションを行うと判断した結果、予算の一部が初年度中に消化しきれなくなってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
ビーレフェルト大学のHIMの修理が完了したことから、次年度使用額を含めて29年度にシミュレーションを継続する。
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