これまでに我々は、長鎖DNAから所定のDNA断片を切り出す化学ツールとして、二本鎖DNAに対して配列特異的にインベージョンする人工核酸(pcPNA)と一本鎖DNA切断触媒であるCe(IV)/EDTAの組み合わせが有効であることを明らかにしていた。そこで、初年度の研究において、この従来の系を用いタンパク質共存下での切断実験を行ったところ、その切断活性が十分ではなく、また、生成物の分離精製が困難であることが明らかとなってきた。そこで、種々の切断分子について検討したところ、昨年度の研究により、酸化セリウムナノ粒子がプラスミドDNAを断片化することを新たに見出した。そこで、今年度はチミジリル(3→5)チミジン(TpTと表記する)をDNAのモデル化合物として用い、酸化セリウムナノ粒子のリン酸ジエステル切断能を高速液体クロマトグラフィーにより評価した。その結果、0.1 mMのTpTに対して、1.4 mg/mLの酸化セリウムを加え、50℃、pH7で反応させると、半減期11.4時間でTpTが加水分解された。これは、Ce(IV)/EDTAと比較すると10倍以上のリン酸ジエステル加水分解活性に相当する。一本鎖DNAと二本鎖DNAの切断選択性に関しては現在検討中であるが、DNA切断後の触媒の分離点ではCe(IV)/EDTA均一系に対してナノ粒子系が容易であることが予想される。また、特定の配列部に結合性するタンパク質を捕獲するため、PNAの末端に光反応性の官能基(ジアジリジン)の導入を試みた。質量分析測定からは合成に成功していることを支持するデータが得られ、現在その架橋反応能について検討を加えている。さらに、末端をビオチン化したpcPNAを用い、所定の位置でDNAを切断後(この検討では一本鎖DNA特異的に切断する酵素を用いた)、目的断片を回収する条件の最適化を行った。以上の結果を踏まえ、PNAと目的タンパク質(転写因子など)を架橋反応した後、これらを回収する条件の最適化を実現する。
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