「生体の光学的窓」と呼ばれる近赤外(Near-Infrared: NIR)領域に発光特性を持つ機能性色素を創製してバイオセンシングに応用するとともに、長波長色素の特性を活用した有機系太陽電池の素材開発を目的として、光合成色素(バクテリオ)クロロフィル誘導体の合成的研究を行った。 初年度の主要成果として、クロロフィル誘導体をミセルで包んだナノ粒子を作成し、がん細胞への導入を検討した。水溶性部位としてカルボン酸を持つ亜鉛クロリンをPluronic F127に内包させた粒子が良好な蛍光量子収率を示し、細胞のイメージング蛍光色素として利用できることを示した。 2年目は、ウミシイタケの発光基質であるセレンテラジンと長波長発光を持つクロロフィル誘導体を連結させたエネルギー移動型ルシフェリンを設計した。合成した基質のバイオ・ケミカルセンサーとしての特性を検討したところ、酵素添加による生物発光は観測できなかったものの、化学発光スペクトルでは分子内エネルギー移動により発光ピークを長波長化させることに成功した。 最終年度はクロロフィル類の特性を生かし、人工光合成に関わる分野での活用を検討した。有機薄膜太陽電池の主要部である電子ドナー層とアクセプター層をともにクロリン誘導体で作製し、植物の光合成系内で行われている2段階の励起エネルギー獲得機構「Z-スキーム」を模倣したデバイスの開発に成功した。また、NIR領域までの光を幅広く吸収できる色素複合体を合成し、水素発生用の光触媒として有効であることを示した。さらにスピンコーティングで自己会合体を形成できる誘導体が、ペロブスカイト型電池のホール輸送膜として優れていることを見出した。
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