研究課題/領域番号 |
16K05827
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
宮武 智弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (10330028)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素 / 酵素阻害剤 / 蛍光センシング / リポソーム / 膜透過性ペプチド / カチオン性ポリマー |
研究実績の概要 |
医薬品の開発等に不可欠な酵素および酵素阻害剤の活性評価を、従来法よりも簡便、迅速かつ高感度に行える全く新しい蛍光検出型の分析手法を開発する。ここでは、カチオン性のペプチドがリポソームの脂質二分子膜を透過する現象を応用して、酵素反応溶液中の基質の濃度変化を蛍光強度の変化として検出する。こうして酵素反応を可視化し、その活性評価を容易にするラベルフリーな分析系を構築する。本研究では、さらに低濃度で作用する膜透過性ペプチドを創製することで低濃度の分子を検出できるよう改良し、酵素評価法の感度を向上させ、既法よりも少ない酵素量で検出できる優位性の高い分析法の確立を目指す。そして、本研究期間内に、癌治療にも関係するリン酸転移酵素(キナーゼ類)の活性評価系を確立し、その高感度分析を実現させることを目標とする。 これまでの研究から、カチオン性のオリゴアルギニン類は、表面電荷が負である脂質二分子膜と相互作用しやすく、アニオン性の両親媒性分子との複合化により疎水性基が付与されると、容易に脂質二分子膜を透過できることが確認されている。今年度の研究では、①ペプチドの膜透過に大きく寄与する疎水性置換基として長鎖アルキル基をオリゴアルギニンに導入した新規膜透過性ペプチドの合成とその活性評価、②新たな膜透過性分子としてカチオン性の合成ポリマーであるポリアリルアミン誘導体の合成とその活性評価、をそれぞれ実施し、より低濃度で作用する新規膜透過性分子の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的な固相合成法によりアルギニンを重合させたオリゴアルギニンを合成し、そのN末端に長鎖アルキル基をもつカルボン酸であるドデカン酸を縮合させることに成功し、予定していた長鎖アルキル基を持つオリゴアルギニンを合成することができた。つぎに、蛍光色素を内封したリポソームにこのオリゴペプチドを添加したところ、速やかに蛍光発光の上昇が確認された。そのEC50値は3.0 uMと小さく、長鎖アルキル基を導入したオリゴアルギニンは低濃度で作用できる高い膜透過性を有することが明らかとなった。一方、ペプチドに代わる新たな膜透過性分子としてポリアリルアミン誘導体の合成を試みた。ポリアリルアミンの側鎖にあるアミノ基を、よりpKa値の大きなグアニジウム基へと変換することで、よりプロトン化を受けやすくカチオン性になりやすい分子へと誘導化した。得られた新規膜透過性ポリマーはドデシルホスフェートなどの両親媒性アニオンの共存下で脂質二分子膜に対する透過性を持つことを確認した。また、その作用濃度は、ポリアリルアミンのそれよりも低く、グアニジウム基の導入により低濃度で作用する膜透過性分子を得ることができた。以上の結果より、今年度の研究ではより低濃度の酵素を高感度で分析するために必要な、高活性な膜透過性分子を合成することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の研究にて合成・膜透過活性が確認できた高活性な膜透過性オリゴペプチドならびに合成ポリマーを用いて、酵素活性の評価を行う。まずは、最も汎用性の高い酵素であるヘキソキナーゼを対象とした試験を行う。それと同時に、オリゴペプチドに導入する疎水性基の位置や数を変えたり、置換基の種類や数の異なる合成カチオン性ポリマーを合成したりしながら、より低濃度で作用できる膜透過性分子の開発を行う。こうすることで、低濃度の(微量の)基質の濃度変化を検出でき、より高感度な酵素活性評価系の構築が期待できる。また、他のキナーゼ類としてタンパク質を基質とするプロテインキナーゼ、グリセリンを基質とするグリセロキナーゼ、など様々な酵素に対しても試験を行い、本系の汎用性についても調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入時の値引きにより、少額の残金が生じた。これは次年度に繰り越して、実験器具類の購入に充当する。
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