本研究では、パーフルオロアルキル基同士の特異的な親和性(フルオラス)を利用し、生体内リン脂質の新規かつ選択的抽出法の開発を行った。本法は、フルオラス性をもつパーフルオロポリエーテルカルボン酸(Krytox)のZn(II)固定化体を利用するものであり、金属キレートアフィニティー抽出様の原理により、リン脂質をフルオラス溶媒中に選択的に抽出する。前年度までに、モデル化合物として、ホスファチジルコリン(PC) 、ホスファチジルエタノールアミン (PE) 、ホスファチジルグリセロール (PG) 、ホスファチジルセリン (PS) 、ホスファチジン酸 (PA) 、スフィンゴシル-1-リン酸 (S1P) 及びスフィンゴシルホスホコリン (SPC) の7種のリン脂質を用いて抽出条件の最適化及びLC-MS/MS測定条件の最適化を行い、標準添加ヒト血清試料において、目的としたリン脂質類を本法により良好に抽出できることを示した。今年度は、本抽出法の更に詳細な検討を行い、実際のヒト血中リン脂質の抽出及び分析へと本法を適用した。リン脂質の中でもPC及びスフィンゴミエリン(SM)及びリゾホスファチジルコリン(LPC)は、MS/MS分析において共通のフラグメントイオンを有することが知られている。そこで、これら3種のリン脂質類を対象とし、本抽出法によって得られた溶液を、LC-MS/MSのプリカーサーイオンスキャン分析に供した。その結果、ヒト血中における6種のLPC、10種のSM及び34種のPCを何ら他の成分に妨害されることなく、検出同定することが可能であった。以上、本研究により開発した方法論は、リン脂質が関与する様々な疾病等の原因解明やバイオマーカー探索などにおける有用なツールになり得ることが示唆された。
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