研究実績の概要 |
軟X線領域は軽元素(C, N, O)の吸収端を有するので、マイクロ流路の軟X線吸収分光(XAS)測定が実現すれば、流路上で起こる溶液反応のメカニズムを明らかにできる。しかしながら、軟X線は大気や液体に強く吸収されるため、マイクロ流路のXAS測定はこれまで不可能であった。本研究課題はPDMS樹脂上に0.05 mmの幅と深さのT字型のマイクロ流路を作製して、その外側に100 nm厚の窒化シリコン膜を接着するマイクロ流路セルを開発することで、マイクロ流路のXAS測定を実現することを目的とする。研究期間の初期には、窓材である窒化シリコン膜が破損したり、流路が水圧により拡がったりするなどの問題があったが、PDMS樹脂と窒化シリコン膜の接着圧を、最適な圧力に調整する方法を考案することで、マイクロ流路を長時間安定して稼働できるようにした。マイクロ流路セルの評価を行うために、分子研UVSOR-IIIの赤外ビームラインBL6Bに設置された赤外顕微鏡を用いて、ピリジン-水混合系におけるT字型マイクロ流路の顕微赤外測定を行った。その結果、ピリジンと水の間の層流を、赤外スペクトルのピーク強度比から求めることに成功した。その後、マイクロ流路セルをUVSOR-IIIの軟X線ビームラインBL3Uに接続することで、顕微XAS測定を行った。XAS測定は軟X線吸収後に発生する蛍光をシリコンドリフト検出器で測定することによって行った。O-K吸収端の蛍光イメージから、マイクロ流路上のピリジンと水の層流を確認した。更に、N-K吸収端XASにおけるピリジン由来のピーク位置の空間分布から、層流付近におけるピリジンと水のモル比率の位置依存性を明らかにした。本研究課題がマイクロ流路の軟X線XAS測定に成功した最初の例であり、今後マイクロ流路上の様々な化学、生命現象の理解に本研究成果が生かされると期待している。
|