研究課題/領域番号 |
16K05833
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
渕脇 雄介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 客員研究員 (80468884)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 紙 / イムノクロマト / マイクロ流路 / ピペット / 体外診断薬 |
研究実績の概要 |
本年度は、既に測定系を構築しているアディポネクチンによるサンドイッチ免疫アッセイ法をベースに、既存の体外診断薬であるイムノクロマト試験紙の蛍光法で感度1万倍、発色法で感度100倍の高感度化を目指した。すでに、96 wellプレートを用いたアッセイ系では市販の診断薬に比べ蛍光検出で1000倍以上の高感度化が可能なことを確認していることから、具体的には、高感度アッセイに必要な複数の試薬の導入法の改良や(タイミング、数、量)、フィルムとテープによるマイクロ流路内における迅速な反応と検出のための構造設計の変更などを検討した。加えて、高感度化に必要な試料の添加から検出に至る一連のプロセスを自動化するため、産業技術総合研究所の材料・化学研究領域と新たに連携し省電力かつ安価・軽量なカーボンナノチューブ(CNT)を用いたピペットシステムと蛍光検出器を組み合わせたモバイル型のプロタイプ機を構築した。本プロタイプ機を用いることで項目ごとに複数の試薬を順次滴下し、紙・フィルムで構成される分析チップ内に試薬を順次導入できるため、多項目の免疫アッセイが可能なことが分かった。 高感度化については96 wellプレートでの免疫アッセイと同等の検出シグナルは見られなかったものの、試薬滴下と蛍光検出のプロトタイプ化により装置全体の安定性が向上したことから、分析チップによるデータのバラつきが低減し、真値による評価系の構築ができることが示唆された。当初は、其々の市販の点眼瓶に各試薬を入れてプロトコルを最適化する予定であったが、当該年度ではこのようにピペットシステムを自動化し、分析チップと組み合わせたカートリッジ化を目指すことで検出系全体の安定性を向上させ、試料の導入から検出までを1 stepで行うプロセスを新たに見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本分析チップとは異なるプラスチックのマイクロ流体チップで測定系を構築しているアディポネクチンのサンドイッチ免疫測定法をベースに、イムノクロマト試験紙より蛍光法で検出感度1万倍、発色法で感度100倍の高感度化を目指し、複数試薬の導入法(タイミング、数、量)やフィルムやテープによるマイクロ流路の構造設計の変更などを検討してきた。これらの諸検討により蛍光法で100-1000倍の高感度化が可能であることを確認したが、チップごとや検体や試薬を扱うときの用手法により結果にバラツキが発生するため、新たに産業技術総合研究所の材料・化学研究領域と連携し、省電力かつ安価・軽量なカーボンナノチューブ(CNT)を用いたピペットシステムとカートリッジ化に取り組んだ。目標となる検出感度のレベルまでの向上は見られなかったものの、検査精度全体の安定性が向上したため、その結果としてデータのバラつき低減や真値による評価系の可能性が示唆された。検査データの精度や操作法の標準化は、緊急時やオンサイト分析においては重要な意味を持つため、結果としてこのように真値による評価系の可能性が示唆されたことは、本分析チップのトレーサビリティ体系の構築や標準化に向けて大きな前進であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から開発に着手したピペットシステムとカートリッジによるプロトタイプ機は、インフルエンザ検査ではイムノクロマト法と核酸検出法が保険収載されているため、これらとの性能比較を検討するが、検査技術のマニュアル化(分析法、試薬導入、機器、校正)は多くの時間を要する。そこで、本年度はこれと並行して、新たに研究用機器や医療機器としてすでに多くが実用化されている電気化学法による検出を検討し学術的に優位な知見を得る。本分析チップで電気化学検出法を検討することのメリットは、電極表面に紙などの繊維が無いため、紙を電極表面に接触させた従来の他の電気化学検出法による分析チップに比べて、感度と正確さに優れていることが予備検討により確認できている。そのため、具体的には昨年度までに得られた光学法による計測値とプロトコルのノウハウに基づき、既に測定系を構築済みのアディポネクチンを用いて、臨床基準値の範囲において高い相関が得られることを確認する。また、インフルエンザの標品ウイルス抗原として、キット付属の不活化処理したウイルス陽性コントロールを生理食塩水で希釈し、高濃度の抗原量に調整したものを「Strong Positive」、検出限界付近の低濃度に調整したものを「Weak Positive」、ウイルス抗原を含まない陰性コントロールを「Negative」とし、これら各試料をキット付属の抽出試薬に混合して用いる。これら得られた結果はとりまとめて学会発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品として電気化学アナライザー(1,512,000円)を購入予定であったが、研究進捗にあわせて研究実施計画の順番を入れ替えたため次年度購入する。また、消耗品にかかわる試薬と部材についても同様の理由で次年度購入する。
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次年度使用額の使用計画 |
物品として電気化学アナライザー(1,512,000円)の購入と、それに関わる試薬(主に抗体)と消耗品(スクリーンプリント電極、蛍光標識ナノ粒子、抽出用フィルターなど)を購入する。また得られた成果を関連学会で発表する。
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