研究課題/領域番号 |
16K05835
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内田 毅 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30343742)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘム / 鉄 / 酵素 / 反応機構 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
病原菌は増殖に鉄を必要とするため、鉄の獲得機構の阻害は抗菌剤の開発につながることが期待される。人が保有する鉄の90%以上はヘムと呼ばれる鉄錯体として存在するため、病原菌の主な鉄源はヘムである。そのため、多くの病原菌はヘムを取り込み、細胞質内でヘムを分解し、鉄を取り出すヘム分解酵素を有する。そこで、この酵素の阻害が病原菌の増殖抑制に効果的であると期待し、コレラ菌のヘム分解酵素であるHutZの反応機構の解明を試みると共に阻害剤の探索を試みた。 ヒトのヘム分解酵素では、酸化型のヘムと結合後、ヘムが還元され、酸素が結合し、短寿命の中間体であるハイドロペルオキシヘムを経由し、メソ-ヒドロキシヘムを形成し、非酵素的にベルドヘムに変換後、酸素との反応でビリベルジンになるという反応機構が示されている。そこで、高速混合法とラマン分光法を組み合わせることにより、不安定な酸素結合体を観測することができた。また、嫌気条件下で1等量の酸素分子と反応させることにより、メソ-ヒドロキシヘムを、そこに酸素分子を加えることによりベルドヘムをそれぞれ観測した。これらの研究により、極めて不安定なハイドロパーオキシヘム以外のすべての中間体を観測したことから、HutZはヒトのヘム分解酵素と立体構造が全く異なるにも関わらず、同じ反応機構でヘムを分解することを明らかにした。 この反応の律速過程が酸素体にプロトン付加する過程と考え、プロトンの供給源になる水分子に着目した。活性部位近傍の水分子に摂動を与える分子として、金属キレート剤のヘム分解活性への影響を調べた。その結果、EDTAは効果がなかったが、デフェロキサミンやPDTSを添加するとヘム分解反応が抑制されることがわかった。阻害定数は5 uM程度のため、薬剤として利用するには不十分であるが、反応機構をもとに、金属キレート能が酵素の阻害が有効であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りコレラ菌由来のヘム分解酵素であるHutZの反応機構を明らかにした。ヘムに結合した酸素分子が還元され、プロトンを付加するが、プロトンの供給源である水分子の構造に摂動を与えるような金属キレート分子が阻害効果が大きいことを見出した。反応機構をもとにその応用研究が展開されていることから、研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
HutZがヘムを分解するためには基質であるヘムと電子が必要である。さらに、HutZは「酵素」ではあるが、生成物である鉄とビリベルジンがタンパク質に結合したままであるため、単独では触媒サイクルが回転しない。そのため、生成物を輸送するタンパク質が必要であり、それらのタンパク質が関与する複雑なシステムを形成している。遺伝子解析から、HutZがhutW-hutX-hutZというオペロンを形成しており、HutWにはFe-Sクラスターの結合部位、HutXにはヘムの結合部位が存在することを見出した。そこで、HutWが電子を供給する還元酵素、HutXがヘムの輸送タンパク質であると予想し、それらをタンパク質レベルで明らかにする。また、コレラ菌と同じグラム陰性菌であるシアノバクテリアに存在するビリベルジンの還元酵素(BVR)の相同タンパク質や、酵母に存在する鉄の輸送タンパク質であるフラタキシンの相同タンパク質(CyaY)もコレラ菌のゲノム配列中にも見出したので、これらのタンパク質がHutZによるヘムの分解物の輸送に関与するか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に遂行されており、予算も適切に消費しているが、基金であることから年度末に不必要に消費せず、次年度に繰り越したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が計上されているが、次年度の交付額と合わせ、大腸菌培養用の試薬費の一部として使用する予定である。
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