研究課題
鉄はすべての生物において必須の元素である。本研究課題では、病原菌の鉄の獲得を阻害することで、新規な抗菌剤の開発につながることを期待する。病原菌の主な鉄源はヘムであり、ヘムを取り込み、分解し、鉄を取り出す。そこで、これらに関するタンパク質の機能について検討した。ゲノム配列からコレラ菌のヘム獲得に関するタンパク質 (Hut:Heme utilization) と推定されていたが、実験的証拠はなかった。そこで、Hutの一つであるHutBの発現系を構築し、発現・精製した。HutBの全長タンパク質は多量体を形成したが、N末端の22残基を削除すると単量体として精製されたことから、N末端はシグナル配列であり、ペリプラズムへの移行シグナルとして、使用されていることが示唆された。また、吸収スペクトルと変異体の解析から、TyrとHisがヘムの配位に関係していることがわかった。これは、緑膿菌のヘム輸送タンパク質であるHasAと同じ構造であることから、HutBがペリプラズムでヘムの輸送に関連していることがわかった。次に、ヘム分解酵素であるHutZの酵素機構について、検討した。HutZのヘム分解機構はヒトのヘム分解酵素であるHOと同一であることは初年度に明らかにしていたが、ヘムの配位子であるHis170とその近傍にあるAsp132との水素結合がHutZに特有であることから、この役割について検討した。この水素結合により、His170は負電荷を帯びるため、ヘムの分解過程には不利に働くと考えられたが、この水素結合はヘムの取り込みに関与しており、切断するとヘム分解活性が消失することがわかった。His170とAsp132は酸化酵素と異なり、異なるサブユニットに存在しており、サブユニット間の相互作用を変化させることにより、水素結合の強度を変化させ、酵素活性を調節するという新規なヘム分解機構を見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りコレラ菌のヘム獲得機構について明らかにした。HutBがペリプラズム間でヘムの輸送に係わることから、HutBの機能の抑制がヘムの取り込みの抑制につながることから、増殖抑制に展開することが期待できる。さらに、細胞質内でヘムを分解し、鉄を取り出す酵素であるHutZの反応制御を明らかにした。この酵素は一般的な酵素と異なり、活性型と不活性型が存在することから、不活性状態を保つことで、感染しても鉄の供給を断つことで、コレラ菌の増殖を抑制する可能性が考えれられる。
鉄の取り込み関しては初年度ならびに次年度により明らかにしてきたので、最終年度は獲得した鉄の利用について明らかにする。鉄は主にヘムの合成と鉄-硫黄クラスターの合成に使われる。ヘムの合成は8段階からなるが、そのうちの3段階目のステップであるポルフィリノーゲンから1-ヒドロキシビランの合成を触媒するポルフィリノーゲンジアミナーゼ (PBGD) にヘムが結合すると酵素活性が25%減少することをコレラ菌由来の酵素により発見した。この抑制に必要な残基はヒトのPBGDには存在しないことから、ヘムによる抑制が起こらないと考えられるが、実験的に確認されていないので、確認する。ヘムは生物にとって必須の分子であるため、その合成過程は微生物とヒトで高度に保存されているが、その制御機構などに微妙な違いが存在する可能性があり、その性質を利用することで、ヒトに影響することなく、病原菌だけを標的とすることが可能性がある。
【理由】研究は順調に遂行されており、予算も適切に消費しているが、基金であることから年度末に不必要に消費せず、次年度に繰り越したためである。【使用計画】次年度使用額が計上されているが、次年度の交付額と合わせ、大腸菌培養用の試薬費の一部として使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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