研究課題/領域番号 |
16K05836
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤野 智子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70463768)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クリック化学 / ヌクレオシド / tRNA / 翻訳反応 |
研究実績の概要 |
タンパク質・ポリペプチドへの非天然型アミノ酸導入法の開発は,医農薬をはじめ幅広い分野で注目されている.現在,非天然型アミノ酸をtRNAに人為的に連結させたアミノアシルtRNAをその運搬体として用いる手法が汎用されているが,アミノアシルtRNAの化学合成においては,効率の低さや導入可能なアミノ酸構造への制約などが克服すべき課題となっていた.本研究では,クリック化学の代表例である銅触媒アジドアルキン付加環化(CuAAC)反応をアミノ酸部とtRNA部の連結反応に活用することで,アミノアシルtRNAの高効率・簡便合成法を開発することを目的とする.これにより導入可能な非天然型アミノ酸を拡張し,タンパク質・ポリペプチドの自在な修飾・編集法の確立を目指す.
研究初年度である本年度は,トリアゾール連結型tRNA合成における鍵となる二つの工程である「1. RNAの3'末端へのアジド基の導入」と「2. アジド化RNAとアルキンとのCuAAC反応による連結」の両者に取り組み,どちらも短鎖のモデル化合物を用いて効率的な合成法を開発するに至った.工程1の「RNAの3'末端へのアジド基の導入」においては,アジド基をもつヌクレオシドトリリン酸をポリメラーゼの基質として用いたが,その類縁体の既知の合成法では,一度に得られる量が一ミリグラム未満とごくわずかであった.本研究の遂行において,このトリリン酸の量的供給が必須であるとの認識のもと,報告者は精製方法を改良し,一度に数十ミリグラム得られる手法を実現した.以上により,当初の予定どおり本課題である長鎖のtRNAに適用する準備が整い,次年度以降の研究展開を迅速に進めるための知見を得ることができた.これらの研究成果なかで,関連するアジド化反応については,現在論文執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である本年度は,本研究の遂行において最も困難が予想された2つの工程の開発に取り組み,モデル化合物を用いて高効率・高選択的な手法を確立することができた.
1.RNA 3'末端へのアジド基の導入法の開発 :アジド化ヌクレオシドトリリン酸の量的供給可能な合成法を確立し,これをRNAポリメラーゼの基質として用いることで,RNAの3'末端にアジド基の導入する手法を開発した.短鎖のモデルRNA分子へのアジド化ヌクレオシドトリリン酸の取り込み効率について,種々のポリメラーゼ酵素を用いたスクリーニングを行い,そのなかで大腸菌RNAポリメラーゼが最適であることを見出した.汎用されている反応条件では大腸菌RNAポリメラーゼでも取り込み効率が50%程度であったが,酵素量,オリゴヌクレオチド濃度,反応時間,事前の精製の有無などの複数のパラメーターをもとに反応条件を最適化し,その取り込み効率を97%と向上させることができた.これらの検討においては,数十サンプルを同時に解析することがきるウレア変性ポリアクリルアミドゲル解析を活用することで,迅速な条件検討を可能とすることができた.
2. アジド化RNAとアルキンとのCuAAC連結:3'末端をアジド化したRNAとアルキンとが穏和な条件下,高選択的にCuAAC連結可能であることを明らかにした.連結するアルキンとして,エチニル修飾RNA 10量体を新たに設計・合成したのち,アジド化RNA 22量体と CuAAC連結反応を行い,得られる32量体の生成量をポリアクリルアミド解析により定量評価した.ここでも触媒の濃度,オリゴヌクレオチドの濃度,テンプレートの存在の有無などを含む条件のスクリーニングを行うことで,高選択的にCuAAC反応が進行する条件を見出すことができた.本年度に最も困難が予想された2つの工程に対して,モデル化合物を用いて高効率・高選択的な手法を確立することができた.
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は,今年度に確立した手法を適用して,本課題の中心分子となるtRNA合成に挑む.開発した手法を74量体からなるtRNA前駆体に適用し,5'位エチニル基をもつアミノアシルtRNA合成法を開発する.5'位エチニル基をもつアミノアシル化ヌクレオシドは,申請者らの開発した5'位エチニル基をもつヌクレオシド類縁体から3工程により合成する.CuAAC反応による連結において反応効率が低い場合は,銅触媒や配位子,溶媒,濃度などを含む条件検討により反応条件の最適化を行う.続いて,トリアゾール連結型アミノアシルtRNAの三次元構造形成能の評価を行う.アミノアシルtRNAは特異的な三次元構造をとることで,アミノ酸運搬体としての機能を発現する.トリアゾール連結型アミノアシルtRNAの水中での最安定構造について,各種スペクトル解析(紫外可視吸収スペクトル・円二色性スペクトル・NMRスペクトルなど)により調べ,天然型アミノアシルtRNAとの比較・評価する.これにより,人工アミノアシルtRNAの構造に関する基礎的知見を得る. さらに,トリアゾール連結型アミノアシルtRNAの翻訳反応を開始し,そのアミノ酸運搬機能を評価する.リボソームや翻訳に関わる酵素を再構成した試験管内・無細胞翻訳システムを用い,そのアミノ酸運搬効率と対応するアミノ酸への選択性を指標とした評価を行う.ここではUAGコドンのmRNA内の位置を調整することで,人工アミノアシルtRNAがペプチド内に運搬する非天然型アミノ酸の導入数・導入位置・連続性などに対する構造活性相関研究により,その運搬機能を体系的に明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究代表者の異動とともに,所属する研究室の東京大学への引っ越しがあったために,試薬の購入額が予定よりも少なく,残額の繰越を行った.
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額は次年度に物品費(主に試薬)として使用する予定である.
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