核酸オリゴマーはその核酸塩基間での選択的なWatson-Crick水素結合形成に加え,電子豊富なπ共役系をもつ核酸塩基対のπ積層によって,一次元的二重鎖を構築する.こうした1次元鎖が生体内でタンパクや酵素類から認識され,複製・転写・翻訳などセントラルドグマに関わる多様な酵素反応を誘発する「酵素基質」として働く.最近,核酸オリゴマーを人為的に作製した遺伝子工学研究が盛んに行われてきており,とくに酵素反応における鍵となる核酸連結部への非天然型構造の導入が注目されてきている.比較的合成のしやすいDNAに比べて,特にRNAへの化学修飾例は限られており,特に容易に加水分解を受けやすいリン酸連結部の改変例はごくわずかである.そのためRNA内の非天然型連結部の酵素反応に与える影響はほとんど明らかになってきていない. 本研究では,翻訳反応において,mRNAのコード領域の塩基配列に対応するアミノ酸運搬の役割を行う長鎖のRNAオリゴマーであるアミノアシル化tRNAへのトリアゾール連結部の導入効果を明らかにすることを目的とした.その前駆体となるアジド化核酸オリゴマーの高効率な導入法を検討するなかで,この構造が,次世代シークエンサーの鋳型長鎖の調整法として最適であることに着想し,独自の簡便な遺伝子解析技術を開発してきている.さらに,こうした非天然型連結部の機能性の鍵となるその熱力学的・構造的特徴がこれまでほとんど明らかにされてきていないことに注目し,その詳細解析を行った.こうした研究のなかで見出してきた,電子豊富共役系分子のπ積層1次元鎖が電子輸送に最適な強固な分子間相互作用をもつことに新たに着想を得た.本年度は,伝導性オリゴマーの1次元鎖構造を構築し,その特異な電子構造を見出した.
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