研究課題/領域番号 |
16K05838
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 研一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (70167584)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 糖鎖合成 / 累積分裂回数 / ガングリオシド / フルオラス溶媒 / パーフルオロアルカン |
研究実績の概要 |
本研究では、糖鎖プライマー法を用いて、培養細胞の糖鎖合成をモニターし、細胞老化によって糖鎖構造にどのような変化がもたらされるのかを明らかにすることを試みた。累積分裂回数(PDL)の異なるヒト正常線維芽細胞TIG-1に対し、様々なスフィンゴ糖脂質の前駆体であるラクトシルセラミドを模したアルキルラクトシドを投与し、48時間培養した後、培地から糖鎖伸長生成物を逆相SPEで抽出し、イオン交換SPEによって酸性化合物と中性化合物を分離した。順相カラムを用いたLC-MSにより構造解析を行い、検出された各化合物のマスクロマトグラムのピーク面積を基にして、若い細胞(PDLが40程度)と老化細胞(PDLが60以上)との間で、糖鎖伸長生成物の定量比較を行なった。その結果、老化細胞におけるガングリオシドGM2型糖鎖の増加や、中性糖脂質Gb3型糖鎖の蓄積が示唆された。 また、培養環境が糖鎖合成に与える影響を明らかにすることを目的として、酸素供給源として有用であると期待されるフルオラス溶媒を用いた液/液界面培養系における糖鎖合成の評価も行った。培地とフルオラス溶媒との界面において培養したマウスメラノーマB16細胞について、ラクトシルセラミドを投与し、解析を行った。ドデカフルオロヘプタノール/D-MEM培地の二層からなる培養系においては、細胞内への糖鎖プライマーの取り込みが見られなかったのに対し、パーフルオロアルカン/D-MEM培地の系では、ポリスチレン容器で培養した場合と同様に、B16細胞によってLac-C12プライマーにシアル酸が付加し、ガングリオシドGM3型へと伸長するということを見出した。パーフルオロアルカンを用いた場合に、内在性のGM3がより多く細胞内にとどまっているということも示されたため、フルオラス溶媒と接していることにより細胞膜の透過性が影響を受けている可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生体における老化やガン化が糖鎖構造にどのように反映されるのかについて「糖鎖プライマー法」を用いて細胞レベルで解析する。それによって、老化やガン化の指標となる糖鎖を見つけ出すことを目的とする。 本年度は、上記目的に沿って、培養細胞の糖鎖合成をモニターし、細胞老化によって糖鎖構造にどのような変化がもたらされるのかを明らかにすることを試みた。また、酸素供給源として有用であると期待されるフルオラス溶媒を用いた液/液界面培養系における糖鎖合成の評価も行った。 以上の結果より、研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
細胞の老化に伴う糖鎖組成の変化を明らかにする研究においては、過酸化水素などの老化誘導因子を投与した際の細胞老化を糖鎖組成の変化によってモニタリングし、細胞老化を誘導する条件を明らかにする。 一方、細胞のガン化や悪性化に伴う糖鎖構造の変化を明らかにする研究においては、細胞のガン化に伴う糖脂質組成の変化(特に、末端にガラクトースやN-アセチルガラクトサミンを有する糖鎖の量)を調べる。また、ガン細胞の悪性化を亢進するとされる糖鎖の制御を行い、新規な抗ガン剤開発の足がかりとする。具体的には、N-アセチルガラクトサミン転移酵素の阻害剤となる化合物(フッ素化N-アセチルガラクトサミン)を合成する。
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