研究課題/領域番号 |
16K05839
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 聡 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (50227899)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | GH18キチナーゼ / 好アルカリ性放線菌 / Nocardiopsis sp. / マルチドメイン酵素 / キチン結合ドメイン / キチナーゼ挿入ドメイン |
研究実績の概要 |
キチナーゼ生産菌として分離した好アルカリ性放線菌Nocardiopsis sp. F96株の全ゲノム解析の結果,既に解析が進められていた糖質加水分解酵素(GH)ファミリー18キチナーゼをコードするchiF1遺伝子のほかに, 3つのキチナーゼ遺伝子ホモログ(chiF2,chiF3及びchiF4)の存在が明らかとなった。そして,F96株ゲノム上にコードされるこれら4つのキチナーゼは互いにドメイン構成等が異なっていた。例えば,ChiF1はGH18触媒ドメインのみからなるシングルドメイン構造をとり,触媒ドメイン中にはキチナーゼ挿入ドメインを含まない。一方で,ChiF3はマルチドメイン構造をとり,糖質結合モジュール(CBM)ファミリー2キチン結合ドメイン,フィブロネクチンタイプⅢ様ドメイン及びキチナーゼ挿入ドメインを含むGH18触媒ドメインから構成される。ここで,キチナーゼ挿入ドメインは細菌のエキソキチナーゼに見られる構造で,基質と相互作用するクレフトを深くすることでエキソ型の切断様式を獲得すると考えられている。また,分泌に関与するシグナル配列も,ChiF1はSec型,ChiF3はTat型と,互いに異なる。 F96株ゲノムDNAよりchiF3遺伝子をクローニングし,大腸菌BL21(DE3)株にて発現を行った。His-tag 精製した組換えChiF3の性質検討を行い,ChiF1との比較を行った。ChiF1の反応至適pHはpH 4~5,反応至適温度は50°Cであった。一方,ChiF3の反応至適pHはpH 8~9,反応至適温度は45°Cであり,両酵素の反応至適pHに大きな差異が認められた。これより,ChiF3の反応至適pHはChiF1も含めた既知の好アルカリ性放線菌由来のキチナーゼの中で最も高いことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キチナーゼ生産菌である好アルカリ性放線菌Nocardiopsis sp. F96株の全ゲノム解析を行い, 4つのGH18キチナーゼ遺伝子ホモログ(chiF1,chiF2,chiF3及びchiF4)の存在を明らかにした。そして,F96株ゲノム上にコードされるこれら4つのキチナーゼに関して,①互いにドメイン構成が異なり,シングルドメイン構造(ChiF1)及びマルチドメイン構造(ChiF2,ChiF3及びChiF4)をとること,②GH18触媒ドメインは共通して存在するが,キチナーゼ挿入ドメインを含むものと含まないものがあること,③すべてが菌体外酵素であるが,分泌に関与するシグナル配列はSec型(ChiF1)及びTat型(ChiF2,ChiF3及びChiF4)のバリエーションがあること,などを明らかにした。 また,F96株ゲノムDNAよりクローニングしたchiF3遺伝子の大腸菌での発現を行い,組換えChiF3の性質検討を行った。その結果,ChiF3は既に解析が進められていたChiF1とは異なる反応至適pH及び反応至適温度を示し,ChiF3の反応至適pHはChiF1も含めた既知の好アルカリ性放線菌由来のキチナーゼの中で最も高いことを明らかにした。 一方で,chiF3遺伝子の場合と同様にして,F96株ゲノムDNAよりchiF2及びchiF4遺伝子をクローニングし,大腸菌BL21(DE3)株にて発現を試みたが,組換え酵素の取得には至っていない。 性質検討がChiF1及びChiF3に限定的ではあるものの,ChiF3の反応至適pHは既知の好アルカリ性放線菌由来のキチナーゼの中で最も高いことを明らかにするという重要な知見が得られており,研究はおおむね順調に推移していると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はchiF2及びchiF4遺伝子の大量発現に鋭意取り組む。組換えChiF2及びChiF4の精製・性質検討を行い,ChiF1及びChiF3との類似点・相違点を明らかにする。次に,ChiF2,ChiF3及びChiF4の触媒ドメイン中に存在し,ChiF1の触媒ドメインには見られないキチナーゼ挿入ドメインの機能解明を目的として,キチナーゼ挿入ドメインを挿入・欠失した変異型酵素を調製し,基質の切断特性(エンド型/エキソ型)の比較を行う。また,ChiF3及びChiF4の触媒ドメイン領域のみからなる欠失型酵素を調製し,それらの性質検討を行うことで,キチン結合ドメイン及びフィブロネクチンタイプⅢ様ドメインの役割を明らかにする。さらに,キチナーゼ挿入ドメイン及びキチン結合ドメインと酵素のプロセッシビティとの相関関係を調べていく。 Sec型シグナルペプチド配列をもつchiF1遺伝子を大腸菌で発現した場合,成熟型ChiF1は大腸菌の菌体外にまで分泌される。そこで,Tat型シグナルペプチド配列をもつchiF2,chiF3及びchiF4遺伝子を大腸菌で発現した際の各酵素の局在を調べる。ChiF1のシグナル配列をTat型に,そしてChiF2,ChiF3及びChiF4のシグナル配列をSec型に置換し,分泌の有無を調べることで,キチナーゼの菌体外分泌に及ぼすシグナルペプチドの影響を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初,ChiF2,ChiF3及びChiF4の性質検討を並行して進める予定であったが,ChiF2及びChiF4の発現に至らず,結果として初年度は対象酵素をChiF3に絞り込むこととなったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,研究対象を他のキチナーゼホモログにまで拡大する。多種類の組換え酵素の精製に際し,モノリスカラムなど,大量調製が可能なニッケルキレートカラムの導入を計画している。また,キチナーゼ挿入ドメインを含まないChiF1に対してキチナーゼ挿入ドメインを導入した変異型遺伝子の外注による全合成を計画している。
|