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2016 年度 実施状況報告書

光応答性シグナル分子放出材料を用いた生体応答制御

研究課題

研究課題/領域番号 16K05843
研究機関京都大学

研究代表者

坂口 怜子  京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定助教 (80723197)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードガスバイオロジー / 多孔性材料 / 神経科学 / ケミカルバイオロジー
研究実績の概要

神経細胞は複雑なネットワークを形成し、細胞同士で情報をやり取りすることで生命活動を司っている。このネットワークが遺伝的・後天的要因により異常をきたすと、情報伝達が正常に機能できなくなり、神経疾患の原因となり得る。一酸化窒素(NO)は、神経ネットワークの形成に関与する様々な因子の内の一つであると考えられているが、その作用について、詳しい分子機構は明らかになっていない。本研究では、従来存在しなかった「神経疾患に対するガスの薬」創製の基盤技術となることを目指し、光照射によって選択的にNOを放出することが出来る新規材料(nitric oxide framework, NOF)を用いて、NOによる神経ネットワーク制御機構を明らかにするとともに、人工的な神経ネットワーク形成の制御を試みた。生体ガス分子の中でもNOは既に多くの研究例が存在し、特に、血管拡張や免疫系での研究は進んでいる。一方で、より局所的な制御が必要な神経系での研究はあまり進んでいない。本課題では、NOFを細胞培養皿に埋め込んだ材料を作製し、その上で神経様細胞を培養した。そして、神経の分化前後の各段階で、培養皿に特定の波長のレーザー光を照射して特定の範囲のみにNOを放出することによって、神経突起の長さ・方向性・密度などの変化を観察した。従来の研究に多用されてきた、溶液中にNOを放出する供与剤は、細胞培養液中に即座に均一に拡散してしまうため、部位特異的なNO刺激を与えられなかった。本研究で用いたNOFは、レーザー照射の分解能で特異的に、自在にNO濃度を上昇させることが出来るので、これを利用して、細胞内局所におけるNOの影響を評価出来た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成28年度は、開発された一酸化窒素(NO)放出材料を用いて、神経様細胞の神経突起形状に対するNOの影響の観察を行った。一般的に、細胞成長や移動は外環境からの物理的な刺激と、化学物質による刺激(Chemotaxis)によって起こる。本課題では、ガス分子を刺激とした神経突起成長過程の制御(Gasotaxis)を目指した。特定の波長の紫外線に応答してNO分子を放出する”nitric oxide framework” (NOF)を用いて、これを埋め込んだ細胞培養基板上で神経様細胞を培養し、神経分化のさまざまな段階においてNOを部位特異的に発生させることで、神経細胞の応答を観察した。NOFを埋め込んだ細胞培養皿上で、PC12(ラット副腎褐色細胞腫)を培養し、神経成長因子(NGF)を投与して神経様分化を促した。この細胞の神経突起に、範囲を限定してNO濃度を上昇させることによって、形成された神経突起の形状変化を観察した。観察には二光子顕微鏡を用いたため、本来の刺激波長の紫外光の二倍の波長で、細胞毒性の少ない近赤外領域の光(ex. 740 nm付近)でNO放出を制御できた。光照射の強度・時間を制御することで、細胞が曝されるNO濃度の調節を行った。その結果、NOに曝された細胞では顕著に神経突起の長さに変化が生じた。この細胞応答は、NO放出が起きないネガティブコントロールにおいては観察されなかったことから、NO自身による影響であると考えられる。次に、この神経突起の応答を引き起こす、NO感知の分子実体を同定するために、NOによって修飾され、開閉が制御されることが知られている数種類のイオンチャネルの阻害剤を投与したが、応答に変化は見られなかった。この結果は、今回試験を行ったイオンチャネル群が神経突起のNO応答には関与していないことを示唆している。

今後の研究の推進方策

NOが神経突起成長に影響を与えることが明らかになったことから、細胞内にはNOを感知する分子が発現していると考えられる。平成29年度以降は、このNOが作用するターゲット分子を探索し、NOによる神経分化制御の分子メカニズムの解明を目指す。
NOはその反応性の高さから、生体内に存在する様々な分子と化学反応を起こす。そのうちの一つがタンパク質のニトロシル化反応である。現在までに、細胞膜上に発現しているイオンチャネルの開閉が、システイン残基のニトロシル化によって制御されていることが報告されている(Yoshida et al., Nat Chem Biol. 2, 596-607 (2006)など多数)。平成28年度に試験的な結果として、非選択的なカチオンチャネルファミリーであるTransient Receptor Potential (TRP) channel のうち、NOによって開閉が制御されることが知られている数種類の阻害剤の効果を評価したが、いずれも神経突起成長には影響は見られなかった。平成29年度は評価の範囲を広げ、この分子実体を、神経細胞の抽出物からニトロシル化された残基を選択的に検出するビオチンスイッチ法やwestern blotting, 免疫沈降法などの生化学的な手法を用いてNOを感知する分子実体の同定を試みる。
また、神経細胞間のコミュニケーションの場であるシナプス上に多数のミトコンドリアが存在することから、NO検出の分子実体がミトコンドリアに発現している可能性も考えられる。NOによって神経突起成長が変化する条件下で、ミトコンドリア画分のみを抽出してここに発現しているタンパク質を生化学的な手法で検出し、各種の阻害剤・活性化剤を用いて応答の変化を確かめることで、NO検知に重要な分子実体の存在を評価する。

次年度使用額が生じた理由

研究遂行に必要な細胞培養皿・試薬類の購入にあたり、所属している研究室で進行している他の研究課題で使用する分と共に一括購入したため単価が下がり、当初予定していた予算より安い価格で購入する事が出来た。また、京大独自の別の研究助成を受給する事が出来たので、一部の物品をそちらの予算で購入した。その結果、予算の余剰が生じた。

次年度使用額の使用計画

試薬・消耗品の購入:遺伝子導入剤で(当初予定していたものより多少高価だが)より効率のよい試薬や、より感度の良い抗体の購入などに使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Methyl transfer by substrate signaling from a knotted protein fold2016

    • 著者名/発表者名
      Christian T, Sakaguchi R, Perlinska AP, Lahoud G, Ito T, Taylor EA, Yokoyama S, Sulkowska JI, Hou YM
    • 雑誌名

      Nat Struct Mol Biol.

      巻: 10 ページ: 941-948

    • DOI

      10.1038/nsmb.3282

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 細胞内小器官特異的な熱ダイナミクスの可視化2017

    • 著者名/発表者名
      安好 悠太,波多野 雅彦,坂口 怜子,清中 茂樹,浜地 格,森井 孝,吉﨑 武尚,森 泰生
    • 学会等名
      第90回日本薬理学会年会
    • 発表場所
      長崎ブリックホール、長崎市
    • 年月日
      2017-03-17 – 2017-03-17
  • [学会発表] 細胞内発現型温度センサーによるオルガネラ特異的な温度特性の可視化2016

    • 著者名/発表者名
      坂口 怜子、清中茂樹、森 泰生
    • 学会等名
      Biothermology Workshop 生命システムの熱科学
    • 発表場所
      岡崎コンファレンスセンター、岡崎市
    • 年月日
      2016-12-10 – 2016-12-10
  • [学会発表] アセトアミノフェンに誘導されるヒト肝ガン細胞死における酸化還元感受性TRPチャネルの役割2016

    • 著者名/発表者名
      ヘバ バドゥー、香西 大輔、坂口 怜子、沼田 朋大、森 泰生
    • 学会等名
      第130回日本薬理学会近畿部会
    • 発表場所
      京都大学百周年時計台記念館、京都市
    • 年月日
      2016-11-19 – 2016-11-19
  • [学会発表] 細胞内熱産生機構の可視化-細胞内温度変化は測定可能か?-2016

    • 著者名/発表者名
      坂口 怜子、清中茂樹、森 泰生
    • 学会等名
      第89回日本生化学会大会
    • 発表場所
      仙台国際センター、仙台市
    • 年月日
      2016-09-27 – 2016-09-27
    • 招待講演

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公開日: 2018-01-16  

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