研究課題/領域番号 |
16K05847
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
松本 仁 宮崎大学, 工学部, 准教授 (90363572)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光増感剤 / ポルフィリン / 高原子価金属 / 光殺菌 / 光線力学療法 |
研究実績の概要 |
本研究は、PやSbなどの高原子価金属ポルフィリン錯体の軸配位子を修飾した光増感剤(PS)を合成し、軸配位子の構造と菌体に対する集積性との関係を明らかにし、菌体の光不活性化(PDI)活性の向上をはかることを目的としている。 本年度は、(1)グラム陰性菌である大腸菌に対するPDIについて、多価カチオン性錯体をPSとして合成し、菌体へのPSの集積性およびPDI活性に対するN-アルキル基の導入効果の検討、および、(2)真菌である酵母菌に対する多価カチオンPSによるPDIについて、ヒト血清アルブミン(HSA)の添加効果を検討して報告した。さらに、(3)P-ポルフィリン錯体へのmeso位水素添加によるP-フロリン錯体の合成を行った。 特に(1)については、P-錯体の軸配位子にアルキルピリジニウム(Apy)基を導入した三価カチオンP-およびSb-錯体、および、ポルフィリン環周囲の一部のフェニル基をApy基とした二価カチオン錯体を合成した。meso位にApy基を有する二価カチオン性のPSでは、暗所毒性が見られた。一方、軸配位子にApy基を有する三価カチオン性のPSでは暗所毒性は見られず、モノカチオン性よりも高いPDI活性を示した。さらに、N-アルキル基の炭素数の増加に伴ってPDI活性が上昇し、ヘプチル基を導入した場合に最も高いPDI活性を示した。PSを添加した大腸菌の蛍光顕微鏡観察から、Apy基に適度な炭素数のアルキル基を有することで、PSの菌体への集積性が向上し、高いPDI活性が得られることが明らかとなった。 病原菌も多く知られるグラム陰性菌に対するPSの開発は、抗生物質耐性菌の感染症治療に重要である。(1)で合成した錯体は、グラム陰性菌に対するPDI用薬剤として意義深いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)多価カチオン性PSの合成と大腸菌に対するPDI、および、(2)酵母菌に対するPDIのHSA添加効果の検討、さらに、(3)P-錯体への水素添加によるP-フロリン錯体の合成を目的とした。(1)については、新物質を含めた14種類について合成し、大腸菌に対する親和性およびPDI活性を調べることができ、学会発表および論文発表を行った。また、(2)については、酵母菌に対するPDIのHSA添加効果を、PSの菌体集積性の観点で検討し、論文発表に至った。(3)については、β水素化物の合成法の確立には至らなかったものの、P-ポルフィリン錯体から、meso位水素化物であるP-フロリン錯体への変換方法を確立できた。以上のことから、評価区分2と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
カチオン性親水基としてアルキルアンモニウム(Aam)基を有するPSについて、アルキル基の鎖長を調節することで、PDI活性の向上および菌体特異性について検討する。さらに、非イオン性親水基として、糖を有する両親媒性Pポルフィリン錯体の合成と物性評価、およびPDI活性を調べる。特に、グルコースをはじめとする糖を、2糖あるいはスペーサーとしてのエチレングリコールを介して導入する。合成した化合物の物性は、前年度と同様に評価する。 また、可視光吸収域の長波長化を目的とした水素化ポルフィリン錯体の合成方法を確立させる。水素添加による方法を完成させるとともに、酸化に安定なフロリンとして、meso位に2個のフェニル基を有する錯体の合成を検討する。 PSの真菌類である酵母菌およびグラム陰性菌である大腸菌に対する蓄積性の評価方法としては、PSの菌体に対する吸着等温線を作成し、結合定数などを決定する。さらに、菌体へのPSの蓄積状態を、共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡を用いた蛍光像観察を行うとともに、付属の分光器による蛍光スペクトル解析を行う。蛍光画像およびスペクトル解析の結果をもとに、PSの菌体内分布などを調べ、PDI作用の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
PSの血清アルブミンとの相互作用の確認に使用予定であった蛍光異方性測定用付属品を購入しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、同付属品を購入するとともに、蛍光異方性を利用した、PSとアルブミンなどの生体高分子、菌体などとの相互作用の解析を行う予定である。
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