研究課題
核共鳴非弾性散乱分光(NRVS)測定で得た鉄含有蛋白質および蛋白質モデル金属錯体のスペクトルデータの解析と密度汎関数法計算による理論解析を行った。NRVS測定により得たスペクトルから、多重振動励起の効果の除去と装置関数のデコンボリューションすることで、振動状態密度を得た(本解析にはPHOENIXプログラムを使用した)。理論解析では、密度汎関数法の各種理論レベルによる蛋白質分子およびモデル分子の構造最適化と基準振動解析を行い、振動状態密度のシミュレーションを行った。実験データと理論解析を比較することにより、各分子系に対する最適な理論レベルについて検討して解析法を確立した。本研究により、蛋白質とモデル錯体の鉄活性点近傍の振動構造を明らかにし、それらの構造機能相関に本質的な分子構造と電子状態の情報を得た。また、核共鳴非弾性散乱分光では試料にガンマ線を照射するため、試料の分解(特に、鉄活性中心の還元)が問題になると考えられる。したがって、他の分光法を併用して、試料の状態を確認することが必要になる。共鳴ラマン分光は、試料の鉄活性点近傍以外の分子振動構造、すなわち鉄の変位が小さい分子振動構造の解析も可能であることから、NRVSと共鳴ラマン解析を同一試料について行うことにより、試料の分解の検証のみならず、分子構造と電子状態について重要な情報を与えることができる。この目的のために、液体窒素で凍結したNRVS用研究試料を、共鳴ラマン分光法により解析する方法を検討した。
3: やや遅れている
核共鳴非弾性散乱実験のビームタイムを予定したように獲得できなかったため、NRVS実験データの蓄積の上で順調ではなかった。また、急速凍結混合装置の開発において設計が完成しなかったため、計画に遅れを生じた。一方で、データー解析と理論解析の上では順調であった。
SPring-8に課題申請をして十分なビームタイムを獲得するためには、当該施設を利用した実験について論文成果の発表が重要と考えられるために、現在進めている核共鳴非弾性散乱分光の理論解析を推進して論文発表へつなげる。また、蛋白質反応において生成する不安定化学種の研究のために急速混合凍結を可能にする装置開発を推進して課題申請においてアピールし、十分な実験時間の獲得を目指す。
SPring-8で実験するための研究課題申請が予定したとおりには採択されなかったため、実験に要する消耗品費が使用されなかった。また、急速混合凍結装置の設計が確定せず、それに要する装置および部品の購入を控えたために支出が減り、次年度使用額が生じた。
SPring-8における実験のための消耗品費として使用する。また、急速混合凍結装置の設計を確定し構築するための装置と部品の購入費にあてる。理論解析を推進するために、コンピュータの導入を検討する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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