本研究は、脂質二重膜との相互作用により特定構造を取り、分子間で会合して複合体を形成し、その機能を発現する膜表在性タンパク質、および、脂質結合ペプチドの立体構造解析に有効な固体核磁気共鳴(NMR)分光法の開発を行う。また、固体NMR分光法を用いて、当該試料の典型的な解析対象となる脂質膜上で誘起されるアミロイド線維、およびその線維化前の会合中間体の立体構造解析に適用し、線維形成機構の解明を行うことを目的としている。 本年度は、昨年度に続き、GM1含有脂質二重膜に結合したアミロイドβ(1-40)に関して、数種のアミノ酸種選択的、および残基特異的13C、15N全標識試料を調製して、13C同種核相関2次元固体NMR測定を行い、より信頼性の高い信号帰属を実現した。得られた化学シフト値に基づく二次構造解析により、分断されたβシート構造を持つことが判明した。さらに、スピンラベルをC末端に導入した非標識Aβ(1-40)を含有した試料でParamagnetic Relaxation Enhancement(PRE)による相関信号の消失および減少を検出し、C末端と近い残基を特定することに成功した。これらの情報に基づき、分子間配座を含めた分子構造の構築を行っている。 また、15N-13C異種核2次元相関NMRに必要なDouble Cross Polarization(DCP)法の改良を試み、既存の測定法で複数の因子に関して各条件最適化を行うことにより大幅な感度向上を実現した。さらに、既報の改良型測定法に関して、特定条件下では性能が大幅に低下することを確認し、これを改善する手法の理論的検討を行った。
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