研究課題/領域番号 |
16K05859
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
柳沢 達男 国立研究開発法人理化学研究所, 横山構造生物学研究室, 研究員 (10450420)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / 翻訳 / アミノアシルtRNA合成酵素 / tRNA / 翻訳後修飾 / タンパク質 / 非天然型アミノ酸 / 病原性細菌 |
研究実績の概要 |
翻訳因子EF-Pはほぼ全ての細菌に保存されているL字型のタンパク質で、プロリンが連続する配列(プロリンストレッチ)のために起こる遺伝暗号翻訳の遅れを解消する役割を担っている。EF-Pの機能にはL字先端にあるLys34にβリジンが付加修飾されることが非常に重要である。一方でβリジル化に関わる酵素群は大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌など細菌全体の3割弱にしか存在せず、残り7割以上の細菌には存在しない。研究代表者らは髄膜炎菌感染症の原因菌である髄膜炎菌由来のEF-Pに着目して髄膜炎菌から内在性のEF-Pを精製し分析したところ、(大腸菌EF-PのLys34に相当する)Arg32がラムノシル化されていること、プロリンストレッチにおける翻訳停滞を回復させる活性にはラムノシル化修飾が重要であること、またEF-PおよびArg32は髄膜炎菌の生存に不可欠であることを明らかにした(Yanagisawa et al., Plos ONE,2016)。本課題では髄膜炎菌由来EF-P、糖転移酵素EarP、およびEF-P/EarP複合体の結晶化に成功、三次元構造を原子レベルで解明し、ラムノシル化修飾に重要なアミノ酸残基、EF-PとEarPの結合機序を明らかにすると共にArg32ラムノシル化修飾の新たな反応のメカニズムを提唱した(Sengoku et al., Nat.Chem.Biol., 2018)。最終的には病原性細菌由来のEF-Pなどもふくめ、EF-Pの翻訳後修飾や関連タンパク質のネットワークの全貌を解き明かすことを本研究の目的とする。EF-PやEF-P翻訳後修飾に関わるタンパク質はヒトやその体内に存在する腸内細菌、常在細菌に悪影響を及ぼさず、特定の病原細菌のみを退治できる有効な抗菌剤の開発に繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
髄膜炎菌由来EF-Pのラムノシル化修飾酵素EarP単体、EarPとその基質であるdTDPラムノースとの複合体の結晶構造解析、EarP/EF-P/dTDPラムノースの3者複合体の結晶構造解析に成功し、それぞれの複合体の結合機序を明らかにした。変異導入、ITC等の生化学実験によりEF-Pの結合活性、EF-Pラムノシル化修飾活性に重要なアミノ酸残基を同定すると共に、分子動力学的シミュレーション解析によりEF-P(Arg32)との反応に適切なラムノースのコンフォメーションを推定し、ラムノースの反転を伴うラムノシル化修飾の新たな反応メカニズムを提唱した(Sengoku et al., Nat.Chem.Biol., 2018)。
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今後の研究の推進方策 |
EF-PとEF-P修飾酵素、またそれと相互作用する関連タンパク質を非天然型アミノ酸の導入系とUVクロスリンクを用いて探索する。EF-PおよびEF-Pのラムノシル化の髄膜炎菌の感染性への寄与を明らかにする。また他の病原性細菌に関してもEF-Pの翻訳後修飾を明らかにすると共に、EF-PとEF-P修飾酵素の複合体結晶化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) DNA、培地、一般試薬類が安価に済んだことと、高価な非天然型アミノ酸の受託合成を行わなかった。 (使用計画) 前年度の分を非天然型アミノ酸の購入に宛てることにした。
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