今年度は主にこれまでに合成したポリカフェ酸の示す物性が分子鎖レベルのどのような構造に起因するかを調べるため、SEC-MALLS法によるポリカフェ酸のコンホメーション解析を行った。芳香環に起因する蛍光の影響を除去するため蛍光フィルターを検出器に装着したSEC-MALLS装置を検出器とするサイズ排除クロマトグラフィー測定を行い、重合条件の異なるポリカフェ酸に関して絶対分子量分布と慣性半径分布を求めた。両者の関係から求められるポリカフェ酸主鎖のコンホメーションプロットにおいて、重合時間が短いものではより密に詰まった形態(分岐度が高いことを示唆)を示唆するプロットであったのに対し、重合時間が長くなるにつれてより直鎖高分子に近いコンホメーションであることを示すプロットに遷移した。このことから繊維化が可能なポリカフェ酸分子鎖のコンホメーションは分岐をあまり含まず通常のランダムコイルに近いものであることが示唆された。今後の繊維化条件の精密化においては、今回の分子鎖コンホメーションに関する知見及び、高温下における分子鎖の運動性に関する粘弾性測定等から得られる知見を組み合わせて検討を行う予定である。 なお昨年度までに実施した、ポリカフェ酸の合成、基礎物性解析および繊維化に関して、査読付き論文(Journal of Fiber Science and Technology誌)に投稿し掲載された。また関連する天然由来芳香族化合物を用いた高分子の合成に関する今後の展望に関して、書籍分担執筆を行った。
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