有機金属触媒を用いた炭素-炭素、炭素-窒素、炭素-酸素結合形成反応は広く研究され、現在、有機合成を行う上で欠かせない手法である。また、水中系での結合形成反応もグリーンケミストリーの観点から開発の期待が急速に高まってきている。 これらの反応は、ハロゲン化アリールと有機金属試薬とを用いたカップリング反応により実現されており、基質より生成したハロゲン化物イオンが反応排水を汚染してしまう問題がある。また、水中にはCO2が容易に溶存でき、炭酸塩として存在しているが、現状の水中系での反応の開発においては、この資源をうまく活用できていない。そこで本課題では、1)擬ハロゲン化物を用いた反応を開発する、2)水中溶存CO2を原料とする有機変換反応の開発を検討することで環境調和型反応の構築を目指し研究を行った。 両親媒性の反応としてPS-PEG共重合高分子レジンに着目し、同レジン上に新しく調整した有機反応を司るパラジウム錯体を固定化し、また、一方で、同レジン上にエチレンイミンとビオチン誘導体をCO2固定化部位として導入した固体触媒の合成を行った。次に、その固体触媒を用いて、水中に溶存するCO2の変換反応を試みたが、目的とするメタノールの生成は24時間の反応でごくわずかしか得られなかった。反応の効率化のため、-70℃~-20℃の低温でかつ20MPaまでの反応を試みたが収率の改善はほとんど見られなかった。一方で、擬ハロゲン化物を用いた炭素-炭素結合反応では、前年40%程度得しか反応効率は得られなかったが、擬ハロゲン化物としてアリルエステルを用いることで、クロスカップリング反応がスムーズに進行することを見いだし、その反応の立体選択性まで明らかにできた。また、ジアゾニウム塩とのカップリング反応も収率の向上が見られた。この研究期間で、課題(1)、(2)ともに今後研究を継続・発展させるための知見がえられた。
|