研究課題/領域番号 |
16K05880
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
松田 剛 北見工業大学, 工学部, 教授 (10199804)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化モリブデン / 窒化モリブデン / 水素還元 / 熱処理 / 表面積 / 個体酸 |
研究実績の概要 |
Pt/MoO3を水素流速5 mL/min、温度400~600℃で所定の時間還元して表面積を測定した。400℃還元では、還元1時間後は230m2/gの表面積であったが、表面積は還元時間とともに増大し、48時間後には325m2/gの表面積を示した。 これに対して、500℃及び600℃還元では24時間及び1時間の還元で最大表面積となり、その表面積は各々389 m2/g及び314 m2/gであった。表面積を Mo平均価数で整理したところ、400℃と500℃還元では表面積は同一のMo平均価数依存性を示すこと、600℃還元ではMo平均価数が2.5よりも大きい場合には500℃還元と同程度の表面積を示すが、平均価数が2.5以下では500℃還元に比べて低表面積であること、還元温度によらずMo平均価数2.0付近で表面積が最大となることが示された。500℃で還元した試料を600℃で熱処理しても表面積は変化しなかった。このことから、500℃以下での還元と600℃での還元での表面積の相違は耐熱性によるものではないことが示された。 次に、水素流速60 mL/minで還元を行い同様の検討を行った。水素流速60 mL/minの条件では、還元温度によらずMo平均価数で整理することができた。水素流速60 mL/min、400℃での還元速度は水素流速5 mL/min、500℃での還元速度とほぼ同一であったが、同一Mo価数での表面積は小であった。これらのことから、還元速度は表面積に影響を与えていないことが明らかとなった。XRD測定で、水素流速60 mL/min、400℃での還元ではMo価数3.0でMo金属の生成が確認できたが、水素流速5 mL/min、500℃での還元ではMo価数2.0でもMo金属の生成はみられなかった。このことから、還元生成物の相違が表面積に影響していると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブデン窒化物や炭化物は、活性点当たりで比較すると貴金属よりも大きな反応速度を示すが、表面積が小さいため触媒重量当たりの活性は貴金属よりも低い。昇温反応を適用すると高表面積を有するモリブデン窒化物や炭化物が得られることが報告されているが、これらの生成には700-800℃程度の高温が必要であるため、再生を考えると触媒としては取り扱い難い材料である。高表面積酸化モリブデンの表面を低温でモリブデン窒化物や炭化物に改質し、コアシェル型の窒化物・炭化物を調製できればこれらの問題点を解決することができる。この方法では高表面積酸化モリブデンの表面の反応性が窒化物や炭化物の生成に大きな影響を与える可能性があり、高表面積酸化モリブデンの表面特性や熱安定性を検討し、これらの特性に及ぼすMo平均価数の影響を明らかにする必要がある。 このような背景のもと、当該年度において、Pt/MoO3の高表面積化に及ぼす還元温度及び還元時の水素流速の影響を検討し、これらの還元条件によらず表面積はMo平均価数2.0付近で最大になることを明らかにした。また、水素流速を制御することにより表面積が380 m2/gとこれまでに報告例のない大きな表面積を有する酸化モリブデンの調製に成功した。このように高表面積な酸化モリブデン表面は極めて高い反応性を有していると考えられ、低温での窒化物あるいは炭化物の生成が期待出来る。高表面積酸化モリブデンはMoOx あるいはMoOxとMo金属の混合物であるが、水素流速の制御により同一Mo平均価数でもMo金属とMoOxの割合の異なる酸化モリブデンあるいは含有するMo金属の結晶子径が異なる酸化モリブデンを調製できることも明らかにしており、当初の計画通りの成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
高表面積酸化モリブデンは固体酸性と金属的な特性の2つの機能を有するが、固体酸性の方が格段に優勢であることをこれまでの研究で明らかにしている。この特性が窒化物や炭化物の生成に影響を及ぼすことが考えられる。そこで、表面修飾でより金属的な表面特性にした高表面積酸化モリブデンの窒化および炭化についても検討する予定である。そこで、Pt/MoO3の高表面積化及び表面特性に及ぼすアルカリ金属担持の影響を検討する。 高表面積酸化モリブデンは固体酸性を有しているためにNH3を吸着するが、昇温するとNH3が脱離するだけでなく、水素及び水が生成することをアンモニアの昇温脱離で確認している。この際、窒素の生成はみられないことから高表面積酸化モリブデンが吸着NH3と反応して表面の一部がモリブデン窒化物になっていると考えられる。そこで、アンモニアの昇温脱離および昇温脱離測定に使用した触媒の昇温酸化を行い、モリブデン窒化物の生成を定量的に検討する。次に、NH3を用いて高表面積酸化モリブデンの窒化を行い、以下の項目を検討する。(1) モリブデン窒化物の生成に及ぼす反応条件(反応温度およびNH3分圧等)の影響、(2) モリブデン窒化物の生成に及ぼすMo平均価数の影響、(3) モリブデン窒化物の生成に及ぼす表面特性の影響 モリブデン金属は、鉄やルテニウムに比べて活性は低いが、窒素と水素からのアンモニア合成に活性を示すことが知られており、窒素分子を解離する能力のある成分の一つである。高表面積酸化モリブデンのMo平均価数が1.5以下になるとXRD的にはMoOとMo金属の混合物となるが、この平均価数でも100~200 m2/gの表面積を示す。従って、これらの試料が窒素分子を解離する能力を有していれば窒素分子を用いた高表面積窒化物の調製が可能である。そこで、NH3と同様にN2を用いた窒化物の調製も検討する。
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