研究課題/領域番号 |
16K05880
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
松田 剛 北見工業大学, 工学部, 教授 (10199804)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化モリブデン / モリブデン窒化物 / 水素還元 / 表面積 / 固体酸 |
研究実績の概要 |
300℃~500℃で所定の時間水素還元したPt/MoO3 (Pt/MoOx)の物性を測定した。300℃、2時間の水素還元ではMo平均価数3.9の酸化モリブデンが得られ、その表面積は145 m2/gであった。表面積はMo価数の減少とともに増大し、Mo価数2.2で281 m2/gと最大になった。水素還元した試料を昇温するとH2及びH2Oが生成し、これらの酸化モリブデンは水素を含有していることが示された。H2及びH2O の生成量から求めたH/Moモル比はMo価数3.9では0.42であったが、Mo価数1.2では0.03と、Mo価数の低下とともに減少した。 NH3-TPDを行なったところ、Mo価数3.9では473Kと693KにNH3の脱離ピークがみられた。Mo平均価数の低下とともに高温側のピークが減少し、価数1.6以下では低温側のピークも減少した。この結果はMo平均価数の低下とともに酸量及び酸強度が低下することを示している。しかし,Pt/MoOxのNH3-TPDではH2及びH2Oも生成し、これらの生成量はPt/MoOx に含まれている水素含有量よりも大であった。またNH3-TPDではN2生成はみられなかった。これらの結果は、Pt/MoOxが吸着NH3と反応して一部がモリブデン窒化物になっていることを示している。 NH3-TPDで使用したPt/MoOxの昇温酸化測定でN2が生成したことから、NH3-TPDでモリブデン窒化物が生成していることが明らかとなった。N2の生成量はMo価数3.0~2.0で最大となった。NH3-TPDでのNH3脱離量とTPOでのN2生成量から酸量を求めたところ、Mo価数3.1で最大となることを明らかにした。高表面積酸化モリブデンのシクロプロパン異性化活性は、Mo価数3.9のPt/MoOxを除くと、この酸量と相関していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遷移金属窒化物や炭化物は貴金属と類似の触媒作用を示すが、表面積が小さいため触媒重量当たりの活性は低い。このため、窒化物や炭化物を貴金属代替触媒として使用するためには高表面積化が必要である。高表面積酸化モリブデンの表面を低温でモリブデン窒化物や炭化物に改質し、コアシェル型の窒化物・炭化物を調製できればこの問題点を解決することができる。この背景のもと、昨年度はPt/MoO3の高表面積化に及ぼす還元条件の影響を検討し、還元条件によらず表面積はMo平均価数2.0付近で最大になること、水素流速を制御することによりこれまでに報告例のない大きな表面積を有する酸化モリブデンが得られることを明らかにした。当該年度ではこれら高表面酸化モリブデンの組成を昇温分解および再酸化で測定し、高表面酸化モリブデンが水素を含有するモリブデンオキシハイドライトであることを明らかにした。高表面酸化モリブデンは固体酸触媒として機能することをこれまでの研究で明らかにしていることから、これらに NH3を100℃で吸着させ、昇温した時の生成物を定量的に測定して、窒化物が生成していることを明らかにした。また、この試料の昇温酸化で生成した窒素を定量し、Mo平均価数3.9の試料では4%のMoが窒化物になっていること、窒化物の割合はMo平均価数の低下とともに増大し、Mo平均価数2.2で7%と最大となることを明らかにした。窒化したMoの割合は小さい値であるが、吸着NH3を基準にすると、Mo平均価数3.9の試料では吸着NH3の40%が窒化物になっており、表面の反応性が高いことがわかる。また、この割合はMo平均価数の低下とともに大となり、平均価数1.2では78%となった。これらの結果は高表面積酸化モリブデンの表面は反応性が高く、Mo平均価数で反応性が制御可能であるという当初の想定と一致するものであり、計画通りの成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究で、低温でNH3を吸着させて昇温することでモリブデン窒化物が生成することを明らかにした。昇温過程でのH2及びH2Oの生成スペクトルから、500℃以下でモリブデン窒化物が生成していると判断でき、高表面積を維持していると考えられる。しかし、モリブデン窒化物の生成が表面積や触媒特性等の物性にどのような影響を与えるかは明らかではない。そこで、モリブデン窒化物含有量の異なる試料のXRD測定、表面積測定、触媒特性測定を行い、その影響を明らかにする。触媒特性はアルコールの脱水反応およびシクロアルカンの脱水素反応を行い評価する計画である。吸着NH3を利用した窒化物の合成では、効率的に吸着NH3が窒化物に変換されるが、吸着量が少ないために窒化物の割合を増大させることは困難である。そこで、NH3ガス雰囲気下で窒化物の合成を行い、最適な反応温度やNH3分圧等の条件を明らかにするとともに、窒化物の割合と表面積および触媒特性の関係を検討する。これまでの報告例と比べると、高表面積酸化モリブデンはかなり低温で吸着NH3と反応して窒化物となっていることから、窒素分子とも反応する可能性がある。そこで、窒素分子を用いた窒化物の合成も検討する。 CH4を用いてモリブデン窒化物を炭化すると、MoO3を炭化した場合に比べてより表面積の大きな炭化物が生成することが報告されている。そこで、上記で調製したモリブデン窒化物を種々の条件で炭化してモリブデン炭化物を調製し、モリブデン窒化物の場合と同様な検討を行う。本申請課題で取り扱う高表面積酸化モリブデンは還元がかなり進行した状態であるので、表面の反応性は極めて高い。したがって、高表面積酸化モリブデンは従来よりもかなり低温でCH4と反応して炭化物に改質することが期待できる。そこで、高表面積酸化モリブデンの直接炭化も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行に必要な物品費はほぼ計画通り使用したが、特殊ガスの納入がずれ込み平成30年度の支払いとなったため残額が発生した。しかし、残額の大部分は予算計上していた旅費および謝金を使用しなかったためである。平成30年度は、例年の国内学会だけでなく、国際学会も開催され発表が決定しているので、残額の一部をその参加費および旅費に使用する予定である。また、残りは表面特性評価に必要な混合ガスの購入に充当する計画である。 平成30年度の予算は、物品費50万、旅費40万、謝金20万、その他(会議参加費等)15万として使用する予定である。
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