研究課題/領域番号 |
16K05881
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村田 滋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40192447)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光エネルギー変換 / 光水素発生 / ベシクル / ニッケル錯体 / イリジウム錯体 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでに例のない分子システムによる水の光分解反応系を構築することを最終的な目的として、水の酸化および還元機能をもつ触媒をそれぞれ内包させたベシクル(球状の脂質二分子膜)を混合することにより、それらを協同的に発現させることを検討するものである。前年度に引き続き、既存の酸素発生機能をもつベシクル反応系との連結を想定して、ベシクルを反応場とする光水素発生系の最適化に取り組んだ。 当研究室では、水の還元機能をもつ触媒として白金錯体やコバルト錯体を用いてきたが、ベシクルへの取り込みや触媒活性に問題があった。このため、新たにニッケルビス(ジホスフィン)錯体NiPに注目し、ベシクルを反応場とする光水素発生系への適用性を検討した。酢酸緩衝液(pH 4.5)中でリン脂質DPPCを構成分子とするベシクルに、増感剤として当研究室で開発した可視光吸収能に優れたクマリン6を配位子とするイリジウム錯体を取り込ませ、外水相にNiPと電子供与体となるアスコルビン酸ナトリウムを添加して可視光(> 440 nm)を照射すると、水素の発生が確認された。水素発生量に及ぼすNiP濃度の効果を検討したところ、0.05 mMのときに発生量は最大となり、3時間の照射によって水素発生触媒の回転数は145を記録した。この光水素発生系は、従来のルテニウム錯体を増感剤とする反応系と比較して触媒回転数が高いだけでなく、かなり耐久性に優れている点が特徴である。さらに、増感剤の発光の消光実験を行い、NiPを触媒とする光水素発生の反応機構を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、ベシクルを反応場とする光水素発生系の構築に大きな進展があった。従来の白金錯体やコバルト錯体だけでなく、ニッケル錯体も水素発生触媒として利用できることは、目的とする水の光分解反応系の構築のために有用な結果である。本研究においてまず解決すべき主要な課題は、ベシクルを反応場とする光水素発生系の高効率化であったことを考慮すると、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。但し、NiPは水溶性でありベシクル疎水場に取り込ませることはできないため、この触媒を水の反応系の構築に利用するためには、NiPを内水相に封入させるか、あるいはNiPに疎水性置換基を導入するなどの工夫が必要になる。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究により、アスコルビン酸イオンを電子供与体に用いて、ベシクル疎水場に取り込ませた触媒と外水相の増感剤、およびベシクル疎水場に取り込ませた増感剤と外水相の触媒という二つの光水素発生系の高効率化に成功した。研究の最終年度を迎え、今後は重点的に、酸素発生側との連結を試みる。当研究室ではすでに、水の酸化機能をもつルテニウム触媒をベシクル疎水場に配置し、外水相に増感剤と電子受容体を添加した光酸素発生系を構築している。酸素発生系と水素発生系を連結するためには、それらの間をつなぐ電子伝達体が必要となるが、まず外水相に増感剤を配置した系において、増感剤の酸化体あるいは還元体が電子伝達体として機能するかどうかを調べる。結果が思わしくない場合には、ベシクル疎水場に取り込ませた増感剤の電子伝達体としての機能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)交付された助成金額の範囲で、研究を遂行するために必要な合成用試薬やガラス器具、あるいは実験装置などの消耗品を購入した結果、若干の余剰が生じたため。 (使用計画)本研究を遂行するためには、様々な有機分子や金属錯体を合成するための試薬、および光化学的測定のための各種溶媒、ガラス器具など、消耗品に十分な経費が必要となる。次年度の助成金も消耗品の購入が主要な使途となる予定であり、本年度に生じた次年度使用額と併せて有効に使用する計画である。
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