研究課題
本研究課題は、色素増感太陽電池において理論開放電圧を得るための増感色素構造を量子化学計算から明らかにする。金属錯体増感色素は中心金属、ドナー性配位子、及びアクセプター性配位子から成り、有機増感色素はドナー部位、パイ共役系部位、及びアクセプター部位から成る。本研究課題では、配位子構造等の異なる金属錯体や有機増感色素の量子化学計算を行い、色素増感太陽電池の開放電圧に及ぼす因子を解明する(構造物性相関)。本研究課題によって開放電圧損失がない新たな増感色素構造が明らかになると期待される。まず、有機増感色素及びルテニウム錯体増感色素とセレノシアンレドックス種との分子間相互作用に関する量子化学計算を行った。有機増感色素酸化体のドナー部位にある水素原子とセレノシアン酸アニオンの窒素原子とが相互作用したが、電子移動は起こらなかった。錯体増感色素ではそのイソチオシアナト配位子末端の硫黄原子とセレノシアン酸アニオンのセレン原子が相互作用し、60%電荷・スピン移動した。2つめのセレノシアン酸アニオンは両増感色素ともセレン-セレン結合をつくり、電荷・スピンは完全に移動した。以上の計算結果から、セレノシアンレドックスによる1段及び2段の1電子移動増感色素再酸化機構を提案した。次に、トリス(4-メトキシフェニル)アミンレドックス種と、ルテニウム錯体等増感色素、及びコバルト錯体レドックスとの分子間相互作用に関する量子化学計算を行った。得られた分子間相互作用の形態から、光励起された増感色素から酸化物半導体へ注入された電子とトリス(4-メトキシフェニル)アミンカチオンラジカルとの再結合反応を抑制し、開放電圧損失がなく太陽電池性能を向上させる新たなルテニウム錯体増感色素構造を提案した。また、コバルト錯体レドックスとの分子間相互作用によりタンデムレドックス型色素増感太陽電池の動作機構を解明した。
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Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry
巻: 387 ページ: 112150~112150
10.1016/j.jphotochem.2019.112150
巻: 376 ページ: 255~262
10.1016/j.jphotochem.2019.03.022