研究課題/領域番号 |
16K05892
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
伊藤 智志 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60361359)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 有機半導体 / ポルフィリン化合物 / 臭素化 / カップリング反応 / retro Diels-Alder反応 / ピロール / 芳香族化合物 / 置換基変換 |
研究実績の概要 |
有機半導体材料として知られているテトラベンゾポルフィリン(BP)の,新たな置換基導入法の開発を行った。具体的には,BPの可溶前駆体であるビシクロポルフィリン(CP)への選択的臭素化とカップリング反応を経由することで,任意の置換基を一つだけ持つBP誘導体の合成に成功した。研究代表者の先行研究から,導入する置換基によってその半導体特性が大きく変化することを明らかにしている。今年度の研究成果により,BPの導電特性をより精密にコントロールすることが可能となる。 これと並行して,BPの構成単位であり,誘導体合成が困難とされてきたイソインドール類の新たな合成法を見出した。研究代表者は,ビシクロ[2.2.2]オクタジエン骨格が縮環したピロール(以下,ビシクロピロール)を高沸点溶媒中で熱分解させると,該当するイソインドール類に,低収率ながら変換されることを見出している。この反応が低収率なのは,反応系中に存在する微量の酸素により,生成物の酸化が引き起こされるためである。そこで,高純度の超臨界二酸化炭素中でビシクロピロールの熱分解反応を行ったところ,イソインドールの収率が大幅に向上することがわかった。また反応の際に少量のエチレンガスを添加したところ,さらに収率が向上した(15%→68%→81%)。また,様々な置換基を持つビシクロピロールを合成し,超臨界二酸化炭素中で熱分解反応を行ったところ,熱分解反応がスムーズ進行するものが大半であっったが,予想外の新規反応を引き起こすものも一部見出された。この手法は,有機半導体の高純度化を行う際に強力なツールとなリ得る。 また,シリコン基板は親水性を帯びているため,BPへの親水性基の導入とそのコントロールは重要である。今回,複数のカルボキシ基と疎水性基を持つBP類の合成を行い,BPの溶解性のコントロールにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
想定を上回る新規BP誘導体や金属錯体の合成に成功したこと,アルキル鎖長や修飾位置を変化させることによる半導体膜の「ぬれ」に関する知見が得られたこと,ビシクロピロールへの新たな置換基導入法を確立できたこと(学会発表のみ),両親媒性を持つBPの合成に成功したこと,BPの構成単位であるイソインドールの新たな合成法を見出したことなど,本研究課題に関連する多くの研究成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は研究協力者の家裕隆准教授(大阪大産研)が海外留学中であり,導電特性の計測が出来なかったので,平成29年度以降に集中的に行う予定である。有機半導体膜の形状計測については,研究協力者の伊藤貴志教授(米国カンザス州立大)と緊密に連携しつつ,研究を進める。伊藤教授は平成29年5月来日予定であり,その際に打ち合わせ・サンプルの提供を行う予定である。新規BP類の合成については,平成28年度と同様のペースで推進する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題は年度途中(10/21)に追加採択されたため,研究の実施期間が短く次年度への繰り越しが多く出てしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度も計画通りに研究を進めれば,期間内に適正な予算執行が可能と考えている。
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