研究課題/領域番号 |
16K05896
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
西田 純一 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (70334521)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機発光材料 / 有機半導体 / 分子メモリ / 圧電性 / イミド化合物 / 分子集合体 / 分子不斉 |
研究実績の概要 |
外的な刺激の入力に対して化合物の物性が大きく変化する分子応答システムが盛んに研究されている。本研究では、対称中心を持たない摩擦発光を示す発光性固体分子集合体の開発に加えて、特徴的な発光物性を与えるドナーアクセプター型化合物の創出を検討している。主に①発光性フタルイミド集合体の開発、②ジベンゾヘテロール型発光材料の開発、③ビアンスリル構造を有する化合物の開発、④環状化合物の創出研究を行っている。 フタルイミド化合物の研究においては、これまでにナフチル基が導入された化合物が強いTLを示すことを明らかにしている。今回この部分をアンスリルやナフトチエニル基などのより長い共役ユニットに拡張させた化合物の合成に成功した。アンスリル基を持つ化合物の単結晶X線構造解析に成功している。これらの研究に加えて、遅延発光を示すフタルイミドの共結晶作成の研究においては、研究成果を論文として発表することができた。 ドナーアクセプター型のジベンゾホスホールオキシドやシロール誘導体の合成を行った。より電子供与性が強いアクリダンやフェノキサジン等の複素環が導入された化合物の合成に成功して、室温や低温条件下での発光寿命等の測定と発光機構の考察を行った。 ビアンスリル化合物の研究においては、ジフェニルメタノール基を4箇所に有する化合物の合成を行い、これらが光学分割可能であることを発見した。この化合物は発光性を示し、キラルな発光材料としての可能性を有することを明らかにした。 アルドール縮合反応を利用した環状π共役系化合物の合成においては、長いアルコキシ基を有する化合物の合成を行い、これらの化合物が固体中、π積層構造によって集積していることをX線回折測定から明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに複素環やナフタレン環等を導入したフタルイミド化合物を合成している。強い発光材料の創出を目指して、ナフタレン部分が二つ直列に連結された化合物やフェニレンビニレン、フェニレンエチニレン構造を導入した化合物の合成も行った。高い確率でTL特性を示す化合物が得られ、固体の発光量子収率が70%の化合物も見つかっている。これらの研究を継続し、より分子間相互作用を強くする目的で、長いアセン構造のアントラセンを導入した化合物の合成に成功した。化合物は結晶多形を示したが、構造解析に成功した結晶においては対称中心のない集合体が観察された。合成の重要な中間体であるブロモ置換化合物の合成において、少量副生成するジメチルアミノ置換化合物と共結晶が形成される場合に、その固体から遅延発光が観測されることを発見している。N位のアリール置換基は固体の集合様式や発光性に影響を与え、4種類のアリール基について構造解析、室温や低温での発光物性の測定を行い遅延発光が起きるメカニズムを考察した。 ジベンゾホスホールオキシドの合成研究においては、より電子供与性が強いジメチルアクリダンやフェノキサジン等の複素環が導入された化合物の合成に成功している。これらの化合物の電子供与性部分は捩じれた構造をしているが、低温測定において遅延蛍光と考えられる発光を示した。 ビアンスリル化合物の研究においては、ジフェニルメタノール基を4箇所に有する化合物の合成を行い、これらが光学分割可能な発光分子であることを発見している。 長いアルコキシ基を有する環状π共役系化合物の粉末のX線回折測定を行い、化合物の長さと一致する層構造とπ積層構造が形成されていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を継続し、高い固体発光効率を示す発光性イミド化合物の合成を行う。分子配列の方向が決まっている結晶における電気物性と光物性との相関について調査検討してみたい。これらの化合物の中には、電界効果トランジスタ(FET)の半導体活性層に利用できるものもある。セレノフェンが含まれた化合物は、光照射によって抵抗値が大きく変化することを見つけており、論文化を検討する。 ジベンゾホスホールオキシドの合成研究では、より強い電子供与性部分を導入した化合物、大きな捩じれ結合が導入された化合物の合成に成功している。これらの化合物の光物性についてさらに詳細に調査を行いたい。一重項と三重項励起状態のエネルギー差を小さくした熱活性遅延蛍光を示す化合物の研究に発展させる。リン原子以外に珪素やホウ素原子を含んでいると考えられる化合物の合成にも既に取り組んでおり、中心原子と光物性との関係について検討を行いたい。電子供与性共役部分に大きな炭素の共役ユニットを持つ化合物の合成も行っており、合わせて検討する。 ビアンスリル化合物の研究においては、ジフェニルメタノール基を4箇所に有する化合物が光学分割可能な発光分子となることを発見している。導入しているフェニル基にさらに構造修飾を加え、ゲストを添加することで発光強度や円偏光発光特性が変化するキラルな発光性ホスト化合物の研究に発展させたい。現在合成できている化合物において、金属塩を添加することによって発光色が変化することを見出しているが、ゲストのキラリティ等を識別できる化合物が合成できないか検討したい。またフェニル基に強い電子供与性の官能基を導入して水酸基を脱離させたカチオン種の合成研究を行い、電気化学的な応答性についても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
兵庫県立大学内の平成29年度特別研究助成金(若手研究者支援)40万円に採択されて購入予定であった有機合成試薬の一部を購入することができました。次年度の助成金と合わせて、合成試薬やガラス器具の購入に使用させていただきます。
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