有機半導体は分子配列を揃えることによりデバイスにおける電荷移動度が飛躍的に向上することから、われわれは有機半導体分子をレーザー光で励起して、直接配列を変化させることに注力してきた。これまでに柔らかい配向場として液晶を用いることで、オリゴチオフェン系、クマリン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系などのいくつかのπ共役系有機分子が手軽な光学系を用いるだけで、光配向が可能であることを見出している。しかしながら、配向変化にかかる光強度がこれまでのところ低減化できていないため、直接的な励起による有機半導体分子のダメージは避けられないことから、直接励起しない波長である近赤外線領域で光配向可能な系の探索を行った。近赤外線レーザーに対して高い安定性を有する色素としてニッケルジチオレン錯体を用いた。ニッケルジチオレン錯体を各種濃度で含む液晶サンプルを調製し、YAGレーザーを照射したところ、液晶に相溶性が高いサンプルにおいては、一定強度以上の光強度においてゆらぎを伴った干渉縞が観測され、液晶中にニッケルジチオレン錯体の結晶が析出した系においては干渉縞が観測されないことがわかった。また、プローブ光を用いて、干渉縞が観測される系において光配向特性についても調べたところ、ポンプ光とプローブ光が平行になると干渉縞が見られ、垂直になると見えなくなることから、照射によって誘起される液晶の配向方向は、照射偏波面と平行であると考察した。それゆえ、ニッケルジチオレン錯体は従来の光配向性色素と類似の様式で光配向可能であることがわかった。今後、有機半導体分子と併用させることによって、近赤外線で有機半導体の光配向が可能になると考えている。
|