研究課題/領域番号 |
16K05899
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
安田 剛 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (30380710)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 太陽電池 / 有機EL / 共役高分子 / バルクヘテロジャンクション / Charge Transfer |
研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池(OPV)の動作原理は、①光吸収による励起子生成、②ドナー(D)/アクセプター(A)界面での励起子の解離、電荷生成、③電極への電荷輸送、に大別できる。現在のOPVでは②の向上を目指し、Dとなる共役高分子とAとなるフラーレン誘導体(PCBM)との混合(バルクヘテロジャンクション(BHJ))構造が主流である。これらの構造の薄膜は、光電荷生成の起点となるD/A界面積の増加、および電極までの電荷輸送経路が確保される優れた構造である。 しかしながら薄膜形成時に用いる溶媒や熱処理温度で、BHJ(混合)状態が大きく変化し、精密な分子設計により新規高分子を合成しても、エネルギー変換効率が非常に悪いことが起こり得る。このように現状では、実際にBHJ OPVを作製してみないと効率が分からず、手探りでの材料開発が行われている。 上記の背景から、BHJ OPVを作製した際に得られるD/A混合状態、D/A界面状態を判断する簡便な方法が望まれており、本研究では、その方法としてD/A界面で形成されるCharge Transfer(CT)からの有機ELスペクトル(CT EL)解析を提案した。2017年度では、Dとして共役高分子PTB7とAとしてアルキル鎖長の異なるペリレン誘導体(PTCDI-Cn)の積層OPVを作製し、そのOPV特性とCT発光のアルキル鎖長依存性を調査し、D/A間の距離やD/A界面の分子配向による電荷生成能力に関する知見を得た。具体的には、アルキル鎖が長い(D/A間隔が大きい)とDやAで発生した光励起子が自由電荷に分離し難く短絡電流は低下したが、一端自由電荷に分離するとD/A界面での電荷再結合が抑制され開放電圧が向上した。またCT EL観察よりアルキル鎖が短いと高分子上でPTCDI-Cn配向が乱れるが、疑似的なカスケード構造となり、自由電荷生成には有利であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度では、様々なBHJ OPVの有機EL駆動を行い、得られるスペクトルを測定した。単一成分とは異なるスペクトルが得られれば、界面CT状態からの発光スペクトルと同定できる。カルバゾール系高分子のBHJ膜において、熱処理を行ったところ、熱処理を行っていない太陽電池よりも、特性が低下したが、AFMによる膜質は熱処理有無で全く変化が見られなかった。この熱処理有無のBHJ膜のEL測定を行ったところ、熱処理無の膜からはCT ELのみ観測され、熱処理有の膜からは、CT ELとPCBMからのELが観測された。これにより、熱処理によって、AFMでは観測できないレベルでPCBMの凝集体が形成していると考えられる。これによりELスペクトルの観測で、AFM観察レベル以上の膜構造情報が得られた。 2017年度はD/A界面を制御し、そのCT ELを解析しCT束縛エネルギーを制御する方法を見出すこと、に注力した。まずは、ポリチオフェンのアルキル鎖の長さを変化させて、チオフェン骨格(D)とフラーレン(A)の距離を制御し、そのCT状態をELにより観測することを目的としたが、上記CT ELは強度が弱く、波長1100nm以上に観測されるため、精密な解析が困難であった。そこで他材料系として、Dとして共役高分子PTB7とAとしてアルキル鎖長の異なるペリレン誘導体(PTCDI-Cn)の積層OPVを作製し、そのOPV特性とCT発光のアルキル鎖依存性を調査した。その結果、アルキル鎖が長い(D/A間隔が大きい)とDやAで発生した光励起子が自由電荷に分離し難く短絡電流は低下したが、一端自由電荷に分離するとD/A界面での電荷再結合が抑制され開放電圧が向上した。またCT ELの観察によりアルキル鎖が短いとPTB7上でPTCDI-Cn配向が乱れるが、疑似的なカスケード構造となり、自由電荷生成には有利であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
BHJ OPVを作製した際に得られるD/A混合・界面状態を判断する簡便な方法が望まれており、本研究では、その方法としてD/A界面で形成されるCTからの有機ELスペクトル(CT EL)解析を提案しているが、今年度までに本研究で目標とした (1) BHJ OPVのELスペクトル観察の応用として、CT ELだけでなく高分子やPCBM単体からのELが見られれば、BHJの相分離が大きい(混合状態が悪い)等、AFM観察レベルの情報が得られる事を確認 (2) D/A界面を人工的に制御し、そのCT ELを解析しCT束縛エネルギーを制御する方法の確立 をほぼ達成できたので、次年度は最終年度のまとめとして、論文発表、学会発表を行う。また上記(1)と(2)の成果に関して、他材料にも適用し、本手法が汎用的な手法であることを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究提案段階では、研究補助員を雇用して研究を進める計画であり、人件費を計上していたが、所属研究機関の運営費交付金により研究補助員が雇用できた為、人件費が変更となったが研究計画には変更はない。 (使用計画) PTCDI-Cnをアクセプターとして用いるため、高純度化が必要であり、昇華精製装置の作製・改良に予算を使用する。研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に大きな変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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