研究実績の概要 |
本研究は、高移動度かつ安定に両極性挙動を示す有機半導体材料の開発と、それを用いて高性能なデバイスやこれまでになかった新奇なデバイスを作製することを目的として行われたものである。 本年度では、両極性有機半導体として“適したHOMO/LUMOレベル”を有する半導体分子の合成を行った。上記の“適したHOMO/LUMOレベル”とは、-5.0 ~ 5.5 eV(HOMO)および -4.0 ~ -4.5 eV(LUMO)の範囲のものであるが、現状報告されている有機半導体骨格では要求されるLUMOレベルを満足することが困難であった。そこで、強い電子受容性を示し、かつ容易に化学的修飾が可能な有機半導体骨格である、ナフトチオフェンジイミド(NTI, J. Mater. Chem. C, 2016, 4, 8879.)を開発した。NTIを用いることで十分なLUMOレベルを持つ半導体分子(LUMO:-3.9 ~ -4.3 eV)を種々合成することができ、特に、強い電子供与性分子骨格であるインダセノジチオフェン(IDT)と組み合わせた半導体分子(IDT-NTI)は、両極性有機半導体として適したHOMO/LUMOレベルを示した(LUMO:-4.0 eV, HOMO: -5.3 eV)。実際にIDT-NTIを用いて有機トランジスタデバイスを作製したところ、大気中でも安定に両極性挙動を示すことが明らかとなった。さらに、IDT-NTIは近赤外領域までの長波長の光吸収特性を示したため、光電変換デバイスへ応用したところ、電子アクセプターをして機能し、7%以上の良好な光電変換特性を示すことを確認した。 また、過去に報告した両極性半導体分子(PNDTI-BT、JACS, 2013, 135, 114445、LUMO:-4.1 eV, HOMO: -5.6 eV)を改良し、より均衡のとれた正孔・電子移動度を示す半導体分子(PNDTI-BT-DP、Adv. Mater., 2017, 29, 1602893)を報告した。PNDTI-BT-DPを用いて、単一材料での相補型インバータデバイスを作製したところ、極めて良好な特性(GAIN: ~180, Vdd =40 V, W/L = 1500/40)を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は高性能な両極性有機半導体の開発を目標とし、半導体分子の合成を行った。新規に開発した有機半導体骨格であるナフトチオフェンジイミド(NTI)と、優れた特性を示すことが報告されているインダセノジチオフェン(IDT)を組み合わせることで、新規半導体分子IDT-NTIを合成した。IDT-NTIは目標値を満足するHOMO/LUMOレベル(LUMO:-4.0 eV, HOMO: -5.3 eV)を有し、ねらいどおり大気安定な両極性トランジスタ特性を示した。現状ではIDT-NTIの電荷移動度がそれほど高くないことが問題となっているが(~10-3 cm2/Vs)、可溶性置換基を変更することで向上をはかることが可能であると考えられる。また、IDT-NTIは近赤外領域までの光吸収特性と高い光電変換特性を示すことも明らかとなったため、太陽電池やフォトダイオードなどの光応答デバイスへの応用も期待できる。さらに、過去に報告した両極性半導体分子(PNDTI-BT、JACS, 2013, 135, 114445、LUMO:-4.1 eV, HOMO: -5.6 eV)を改良し、より均衡のとれた正孔・電子移動度を示す半導体分子(PNDTI-BT-DP、Adv. Mater., 2017, 29, 1602893)を報告した。PNDTI-BT-DPを用いて、単一材料での相補型インバータデバイスを作製したところ、極めて良好な特性(GAIN: ~180, Vdd =40 V, W/L = 1500/40)を示した。
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