研究課題/領域番号 |
16K05904
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
渡邉 眞次 北見工業大学, 工学部, 教授 (10240491)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分散重合 / ポリイミド / 表面修飾 / 微粒子 / 単分散 |
研究実績の概要 |
分散重合は、モノマーは溶かし、生成するポリマーは溶かさない溶媒中で重合して、微粒子を得る重合法である。重合前には、均一であるが、重合で生成したポリマーは溶媒に溶けなくなるため析出する。このとき、ポリビニルピロリドン(PVP)のような分散安定剤が存在すると、ポリマーが粒子を形成する。重合の進行とともに生成するポリマーが新たに粒子を形成することなく、既に存在する粒子表面上に析出すれば、単分散性(粒径の分布の狭い)の高い粒子が得られる。実際に分散重合で非常に単分散性の高い粒子が作製されている。しかし、作製できるモノマーはスチレンやメタクリレートに限定されており、縮合系ポリマーで分散重合を行った報告自体がほとんど存在しない。 本研究の目的は,ポリイミド(PI)粒子を分散重合による作製法の確立と,得られた粒子の機能化である。重合の進行と共に生成したポリイミドが析出するところに大きな特徴がある。従来行われていたテトラカルボン酸無水物をモノマーに用いた場合は重合が速すぎるためポリマーの析出が急激に起こり、二次粒子の生成や粒子自体の凝集が起きやすくなるが、本研究ではテトラカルボン酸ジエステルをモノマーに用いることで適度に反応速度を制御できること、また、100℃以上の高温で重合するため、一段階でPI粒子を合成でき、実験操作は簡便である。さらにエステルにトリクロロエチルやマレイミドエステルを使用すれば化学的に反応活性を調節でき、粒子径やその分布の制御につながると考えられる。PIは耐熱性、機械的強度がきわめて高く粒子の使用用途を大きく広げる可能性がある。無機や金属粒子で単分散性の高い粒子を合成することが可能だが、比重低いことや絶縁性が高いことなど高分子粒子の長所をもち、なおかつ耐熱性,機械的強度が高いことで新たな使用用途が広がると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸ジエチルエステル(6FE)とオキシジアニリン(ODA)をモノマーとして用いてエチレングリコール(EG)中、PVPを分散安定剤に用いて197℃で分散重合し、全芳香族ポリイミド(PI)粒子を得た。PVPの分子量や添加量を多くすると粒径は小さくなる。一方、PVPの添加量が少ない場合、粒径が大きくなるだけではなくコンペイトウ状の粒子が得られた。また、EGよりも極性の高いグリセロール(GL)を共溶媒として加えても粒径は小さくなり、GLの体積分率を40%まで高めると単分散で2ミクロン以下の粒子を作製することができた。PVPの添加量と溶媒組成を変えて重合することで8.5-2.0ミクロン程度の単分散なPI粒子を作製できることを明らかにした。 さらに官能基を持つ脂肪族第一級アミンを用いて粒子の表面修飾を試みた。脂肪族アミンは芳香族と比べて求核性が高いため、ODAがイミド結合を形成後でもイミド交換するし、重合前に少量の脂肪族アミンの添加で効率よく官能基を粒子に導入できると考えた。 疎水性のドデシルアミンを用いた場合、重縮合終了後に、アミンを添加してさらに140℃18時間加熱することによってほぼ定量的に粒子を導入することができた。一級アミンとの反応温度を160℃以上にすると一度形成された単分散なPI粒子が凝集、形状の変化を起こしてしまうため、アミンとの反応が起こり、しかも粒子の形状はおきにくい140℃が反応温度として最適であることを見出した。一方極性が高いヒドロキシプロピルアミンは、重合前に添加することで80%程度の導入率でヒドロキシ基を導入することに成功した。 得られたドデシル基で修飾された粒子は非極性溶媒であるトルエンへの分散安定性の向上が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた知見を利用して以下の2点を検討する。1)PEOマクロマーを分散安定剤にした6FEとODAの重合によるPI粒子の合成 2)ピロメリット酸ジエステルとODAの重合によるPI粒子の合成。 1)6FEとODAの重縮合において、分散安定剤のPVPの分子量や添加量が粒子形状や粒径に影響を与えることを明らかにした。今年度はPI粒子に直接共有結合で固定することが可能な、ポリエチレンオキシド(PEO)のマクロマーを分散安定剤に用いて形状や粒径の制御を精密に行うことを試みる。PEO末端のアルコールをトシル化し、ついでアミノ化することによって、6FEと結合できるようにする(PEONH2)。これを分散安定剤に用いて6FEとODAの重縮合を行い、得られる粒子とPEONH2添加量の関係を明らかにする。 2)ピロメリット酸ジエステルは6FEと比べて対称性が高いためより耐熱性、機械的強度の強いPIが得られる。しかし溶解性も低くなるため、ポリマーの形成とともにすぐに沈殿してしまい、粒子をえることは困難である。この重合反応はまず、エステルとアミンが反応しアミドを形成し、ついでアミド窒素が隣にあるカルボン酸を反応、閉環してイミドを形成する。197℃で重合を行うと溶解性の高いアミドの状態はほとんどなくイミドの形成が速やかにおこり溶解性が低下して粒子を形成できない。そこでアミド形成反応が起こりやすい活性エステルをモノマーに用いて低温で重合を行い粒子状のPIの合成を試みる。予備実験で、トリクロロエチルエステルで90℃で重合したところ収率良く、PIが得られることを見いだした。エステルの構造と最適な重合温度の関係を調べ、粒子状のPIが得られる条件を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
重合条件の最適化の実験に時間を要して、ほぼ同じ装置での実験が多く、思ったよりも物品費が掛からなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
重合装置や器具を増やして実験効率を上げる経費として使用する予定である。
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