研究課題/領域番号 |
16K05906
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
笹沼 裕二 千葉大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30205877)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境調和高分子 / コンホメーション特性 / 構造・物性・機能相関 / 回転性状態の統計力学 / 周期境界条件の分子軌道法 / 分子間相互作用エネルギー / 結晶弾性率 |
研究実績の概要 |
本年度の研究対象とした環境調和高分子は、ポリグルコール酸、ポリ2-ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリカプロラクトン、ナイロン4、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート。これらの全てでモデル化合物の分子軌道法計算とNMR実験は終了している。さらに、回転異性状態(RIS)法の統計力学計算でポリマーの分子形態、基礎物性、熱力学関数の評価まで完了しているポリマーは、ポリグルコール酸、ポリ2-ヒドロキシブチレート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートである。なかでもポリ2-ヒドロキシブチレートは側鎖に内部回転をもつので、これをRIS法に組み込むことが当初からの懸案であったが、そのアルゴリズムを築き、プログラムを作成し、良好な計算結果を得ることができた。 もう一つの課題として、高分子結晶の周期境界条件の分子軌道法の構築を提案した。これについては、基底関数重畳補正を踏まえた分子間相互作用エネルギー計算法とポリマーの結晶弾性率の評価法を築くことができた。この計算理論にB3LYPの密度汎関数(DFT)法を採用したが、分散力を過小評価するDFT法の欠点を補正するために補正項を加え、そのパラメータを最適化した。 従来から炭酸ガスを吸収する水溶性環境調和高分子の分子設計に取り組み、ポリN-メチルエチレンイミンのコンホメーション特性と溶液物性を計算で予測していた。その実証として、ポリマーを合成し、IR・NMR・SECによる分子特性解析、静的・動的光散乱測定、ゼータ電位測定で、その溶液物性と凝集挙動を明らかにし、高水溶性で高分子凝集剤・分散剤として機能する特異な性質を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画通りに進展している。予定していた環境調和高分子の半数以上について完了しつつある。すでに国内外の学会で成果を発表し、平成29年度の高分子学会年次大会でも発表する。側鎖に内部回転をもつポリ2-ヒドロキシブチレートのRIS法を構築した。繰り返し単位間でhead-to-tail、head-to-head、tail-to-tailの結合様式が存在し、R体とS体の絶対不斉構造をもつポリプロピレンカーボネートのRIS法に、Bernoulli試行とMarkov確率過程を取り入れた。これにより、様々な立体規則性の下でコンホメーション特性・分子形態・基礎物性・熱力学関数の計算を可能にした。これら炭酸ガスを原料とするポリカーボネートの力学物性や高分子電解質としての特性をコンホメーションの観点から説明した。残りのポリマーについても計画通りに研究を進める。 高分子の周期境界条件の分子軌道法については、ナイロン4とナイロン6の分子間相互作用エネルギーを精密に評価できた。結晶弾性率の評価としては、ポリエチレン、ポリプロピレンの結晶多形を始め、単結晶の弾性率が実験で得られているポリメチレンオキシド、力学物性がコンホメーションに支配されているポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートについでは計算が終了し、実験と整合する結果を得ている。この課題についてはほぼ当初の目的を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
環境調和高分子の構造・物性・機能相関の解明については、進行中のポリマー、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリカプロラクトン、ポリシクロヘキセンカーボネートについて研究を完了する。これで、これまでに研究・開発が進められてきた生合成、生分解性、炭酸ガスを原料とするポリマーをほぼ網羅する。 周期境界条件の分子軌道法計算については、ポリメチレンオキシド結晶での温度変化に伴う自由エネルギーの変化と結晶転移現象の解明とナイロンの結晶弾性率の評価を今後取り組む課題に挙げる。新たな提案として、ポリ乳酸の結晶多形と理論計算による結晶構造の決定を検討している。 当初の予定を超え、新たな研究の方向性を探索したい。研究成果を国内外の学会で発表し、学術雑誌に論文を掲載する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに研究を遂行し、それに従い経費を支出した結果、年度末で6,038円の残金を生じた。金額が僅少であるため、基金制度の柔軟性を活用し、次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額が僅少であり、研究計画および支出計画に特に変更はない。
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