本研究課題が当初対象としたポリマー、ポリグリコール酸、ポリ2-ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリカプロラクトン、ナイロン4、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネートについて、モデル化合物を用いた分子軌道法計算とNMR実験、および高分子鎖の回転異性状態法の統計力学計算は終了し、計画通り目的を達成した。その成果を高分子学会および国際会議で発表している。また、大半のポリマーについて国際的な学術誌に論文を発表し、さらに論文を準備している。当初は対象に考えていなかったポリブチレンカーボネート、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエートについても研究を展開している。これらについては2019年度以降も研究を継続して行く。 もう一つの課題である高分子結晶の周期境界条件の分子軌道法計算法の構築であるが、高分子鎖の基底関数重畳誤差補正法を考案し分子間相互作用の定量的な評価を可能にした。さらに、高分子結晶の弾性率計算を通して、実験家と理論家の間で長年議論されてきた均等応力モデル(結晶相と非晶相が同一の応力を受けているという仮定)の成否に関して有効なデータを与えた。この研究で扱ったポリマーはポリエチレン、ポリメチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン4、ナイロン6、ポリグリコール酸である。特に、ポリメチレンオキシドについては2/1らせん(斜方晶)から9/5らせん(三方晶)への結晶転移を計算で求めたGibbsエネルギーの温度変化から理論的に再現し、転移機構をエンタルピーとエントロピーの拮抗の観点から説明した。さらに実験で得られている情報を理論計算で網羅的に解明した。この課題に関しては予想以上の成果を達成することができた。
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