架橋密度の低い天然ゴムを高速で伸長すると、半結晶性の準安定状態となって形状を記憶することが見出された。この準安定状態をもたらす要因を明らかにする事が、本研究の目的である。そのために必要なのは、①準安定状態にある試料の内部で、結晶と非晶の領域がどの様な状態になっているかを明らかにすること、および、②準安定状態に至るダイナミックなプロセスを明らかにすること、の二点である。そこでこれらの項目の各々を同時並行ですすめた。 ①についてはまず、表面自由エネルギーの極めて低い結晶の生成していることを明らかにした。天然ゴムを引っ張ると、形態エントロピーの作用で伸張結晶化が起こる。準安定状態においては、表面自由エネルギーが低いため結晶の融点が高く、そのために引っ張ったゴムを離しても結晶が溶けずに残るのだと示すことが出来た。続いて、低い表面自由エネルギーがもたらす効果として、極めて融点の高い結晶が生成していることを、実験的に確認した。さらに、全体としての結晶化度は30%に満たないにも関わらず、8倍程度に伸長された状態で形状を保持していることが明確になったことから、非晶領域も準安定状態に重要な役割を持つことが示唆された。天然ゴムの平衡融点について再検討し、既報より25℃地殻高い60℃付近であることを明らかにした。結果として、形状記憶状態は従来の知見で説明可能であり、むしろ、通常のゴムの融点が伸長非晶鎖の収縮力で低下していることが新しい知見として得られた。 ②については、放射光施設における高速時分割X線回折測定を実施し、温度、延伸倍率、および延伸速度によって結晶化のプロセスがどの様な影響を受けるかについて解析するための、大量のデータを取得した。その結果として、通常の高分子結晶化とは異なり、準安定状態に至る伸長結晶化過程は核生成律速になっていないことを明らかにした。
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