研究実績の概要 |
我々は、樹木の細胞壁に着目することで、新しいリンクル形成手法の開発に成功した。この手法では、キトサン(CS)フィルムをフェノール酸(PH)の溶液に浸漬し、そのフィルムを西洋わさび由来ペルオキシダーゼと過酸化水素水で処理することでスキン層が形成する。そのフィルムを乾燥するとリンクル表面が生じる。これまでにリンクル形成メカニズムは明らかにしたが、リンクルのサイズを決定づける因子の解明には至っていない。そこで、本年度は、その解明を目的に、様々なサイズのリンクルの調製と同定を行った。 この手法では、用いるPHの種類や、浸漬工程の温度の違いによって異なるサイズのリンクルが得られる。そこで、PHとしてフェルラ酸(FE)、カフェ酸(CA)及びp-クマル酸(CO)を用いて30, 40, 50, 及び60℃の浸漬処理にて様々なサイズのリンクルフィルムを調製した。 一般的に、リンクルのサイズとフィルムの機械的性質には相関関係が存在する。つまり、浸漬温度の上昇によるフィルムの機械的特性の変化が考えられた。そこで、浸漬工程後のフィルムの弾性率測定を行った。その結果、全ての系において、浸漬温度上昇に伴う弾性率の低下が見られた。また、弾性率の低下に伴う波長の低下が見られたことから、浸漬温度の上昇に伴う弾性率の低下が波長の低下に関係していると示唆された。フィルムの分子量測定を行った結果、浸漬処理によるCSの低分子化と浸漬温度上昇による低分子化の促進が起こることが分かった。つまり、このようなフィルム表面の低分子化がスキン層の弾性率の低下を招き、リンクル波長の低下につながったと示唆された。また、表面硬度試験により浸漬温度の上昇に伴うリンクルフィルム表面の硬度低下も確認できた。以上の結果より、リンクルサイズの変化は、PHの分子構造や浸漬温度の違いによって、スキン層の弾性率が変化することで起こることが分かった。
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