研究課題/領域番号 |
16K05917
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
櫻井 敏彦 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10332868)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 人工核酸 / 遺伝子発現制御 / がん治療 / 遺伝子変異 / SNP |
研究実績の概要 |
ヒト大腸がん細胞の多くにみられるカーステンラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ(KRAS)遺伝子1塩基変異を検出する人工遺伝子の開発を目的として、細胞内取り込み後のサイトゾルへのリリースを可能とするシグナルペプチドを配したペプチド核酸(PNA) -ポリエチレングリコール (PEG) からなるinchworm型PNA-PEGコンジュゲート (i-PPC) を設計・合成した。 synDNAとの相補鎖形成挙動を検討した結果、シグナルペプチドを持たないi-PPCと比較すると1塩基認識能がわずかに低下していることが熱化学パラメーターより算出された。これは、導入したシグナルペプチドとリン酸基の静電的な相互作用が原因と推察された。 サイトゾルリリースシグナルペプチドを配したi-PPCのHeLa細胞への取り込み挙動について、WST-8を用いた細胞毒性評価の結果より細胞毒性は低く,さらに48 h後にサイトゾルへリリースされることが蛍光顕微鏡観察の結果から示された。合成したi-PPCの有用性が示されたことから、次の段階として、大腸がん細胞内での遺伝子発現制御について検討することを目的に、ルシフェラーゼ発現大腸がん細胞(ヒト結腸腺癌細胞;HT-29細胞)を樹立した。このHT-29細胞にi-PPCをトランスフェクトさせたところ、サイトゾルに取り込まれることが確認できた。さらに、細胞あたりのルシフェラーゼ発現量を定量した結果、トランスフェクト後1日目では顕著な発現抑制が観察されなかったが、2日目で優位な発現抑制が観察され、3日目では2~4割程度発現を抑制した。ミスマッチ配列ではこのような発現抑制は見られなかったことから、大腸がん細胞内で1塩基を認識する遺伝子発現制御が可能なi-PPCを合成することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
困難であったサイトゾルリリースシグナルペプチドを配したinchworm型PNA-PEGコンジュゲート (i-PPC)の合成方法を確立でき、これまでマクロピノサイトーシス経路で細胞内に輸送されたもののマクロピノソームからリリースができていなかったi-PPCのサイトゾルへのリリースを可能とした。シグナルペプチドの導入により、1塩基変異認識能がわずかに低下したものの、この問題は利用するシグナルペプチドを変更することで対応できると考慮している。次に、ルシフェラーゼ発現大腸がん細胞(ヒト結腸腺癌細胞;HT-29細胞)を樹立し、サイトゾルリリースシグナルペプチドを配したi-PPCを添加したところ、サイトゾルへのリリースが確認できたこと、またルシフェラーゼ発現量の定量により、細胞内で1塩基認識を可能とする遺伝子発現が可能であった。合成したi-PPCが大腸がん細胞内で1塩基を認識した遺伝子発現制御が可能であることが示されたことから、現在はKRAS遺伝子をターゲットとしたi-PPCの合成と相補鎖形成挙動を検討している。 以上、サイトゾルにリリースされるi-PPCが合成できたこと(当初の計画通り)、i-PPCの相補鎖形成挙動を評価できたこと(当初の計画通り)、ルシフェラーゼ発現大腸がん細胞が確立できたこと(当初の計画通り)、i-PPCによる細胞内遺伝子発現が可能であること(当初の計画よりも進展)から、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、がん細胞へのターゲティングトランスフェクションを目的としたi-PPC-抗EGFR抗体薬の複合化とそのターゲティングトランスフェクション効果について検証する。 a) i-PPC-抗EGFR抗体薬の複合化:有機化学的な手法(ジスルフィド結合,アミド結合など)によるi-PPCと抗EGFR抗体薬の複合化を行う。 b) 蛍光官能基を有するi-PPCの調製:がん細胞へのターゲティングトランスフェクションを蛍光顕微鏡にて確認するため,i-PPC-抗EGFR抗体薬にローダミン系の蛍光ラベル化を施す。 c) がん細胞へのi-PPCの細胞内輸送:細胞内輸送のための至適濃度などの諸条件の検討を行う。抗EGFR抗体薬がエンドサイトーシスで取り込まれる一方で,i-PPCがマクロピノサイトーシス経路で細胞内に取り込まれるため,局在化マーカーを用いて細胞内輸送経路を明確にする。局在化マーカーにはフルオロセイン系の蛍光官能基を持つトランスフェリン,コレラトキシン,デキストランを用いる。蛍光顕微鏡観察による共局在状態を調べ,取り込み経路を明確にする。 抗EGFR抗体薬の選択:ヒト型モノクローナル抗体、キメラ型モノクローナル抗体の利用を検討する。
|