研究課題/領域番号 |
16K05919
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
飯澤 孝司 広島大学, 工学研究科, 准教授 (60130902)
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研究分担者 |
後藤 健彦 広島大学, 工学研究科, 助教 (10274127)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感温性ゲル / コアーシェル / 非対称多層ゲル / 多孔性ゲル / 屈曲―伸長 / 自己折り畳み / 平面から立体 |
研究実績の概要 |
ポリ〔オリゴ(エチレングリコール)モノアルキルメタクリート〕(POEGMA)あるいは同アクリラート(POEGA)ゲルは生体適合性が高く、高塩水中でも感温性を示す等優れた特性を持っている。この特性を生かした温度アクチュエータを作成することが本研究の目的である。H28年度はOEGMAとHEMA共重合体の円柱状ゲル(OEGMA-HEMA)を外側からカルボン酸無水物とピリジンで選択的にエステル化すると完全にエステル化したシェル層と未反応のコア部分に分かれる未反応核モデル類似の反応機構で進行する。このゲルを2等分に切断した非対称の半円筒形二層ゲルはこのコア部分とシェル部分の感温性の違いにより、水温変化により大きく屈曲-伸長することを見出した。しかしながら、mmオーダーのゲルでは平衡に達するのに半日以上かかり実用的な意味からは非常に遅すぎることが判明した。 H29年度は、急遽この問題を解決するため、高速で膨潤―収縮可能な多孔性ゲルを用いる系を検討した。多孔性ゲルを合成できるオリゴ(エチレングリコール)モノアルキルアクリクリート(OEGA)と2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)の共重合ゲル(OEGA-HEA)を合成した。ただし、多孔性ゲルを用いる場合、アシル化剤が高速でゲル内に拡散するため反応がゲル内全て均一で進みコアーシェル構造が生成しない。これを解決するため、アシル化剤の拡散の抑制剤としてエタノール等のアルコールを用いることにより、OEGA-HEAゲルのアシル化が未反応核モデル同様の機構で進むことを見出し、第66回高分子討論会、第20回化学工学会学生発表会 (東広島大会)で報告した。ここで得られた半円筒二層ゲルは約3分で平衡に達し、約300倍以上高速で膨潤―収縮可能なゲルを開発することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた非多孔性のOEGMAとHEMAの共重合体の円柱状OEGMA-HEMAゲルのアシル化から得られた半円筒形ゲルは、水温変化により大きく屈曲するが、屈曲―伸長速度が遅すぎて実用的でないことが判明した。非多孔性のOEGMA-HEMAゲルに代わり多孔性のOEGA-HEAゲルを用いることによりこの欠点を解決することができた。そのため、予定より半年程度、半円筒形ゲルなどの非対称二層ゲルのテストピースの屈曲-伸長特性の研究が遅くなった。 多孔性のOEGA-HEAゲルのアシル化の際、エタノール等のアルコールを添加することにより、高速で屈曲―伸長する二層ゲルの合成法を確立し、この問題を解決することに成功した。しかしながら、多孔性ゲルを用いた場合、平衡時の屈曲率が同等の非多孔性二層ゲルに比べ小さくなる欠点が見られた。水、メタノール、エタノール、さらに長鎖のアルコールを添加えした方が平衡時の屈曲率が高くなること、さらにアシル化剤にクロロ酢酸無水物を用い合成した二層ゲルのゲル断面のEDX分析から求めたエステル化率分布から、アルコールがアシル化剤拡散抑制剤として働く新規の反応機構を明らかにした。この反応機構に基づき、n-オクタノール等の長鎖のアルコールをアシル化剤拡散抑制剤に用いることにより平衡時の屈曲率が低くなる欠点を改善することに成功した。 H30年度は、これらの研究の前進からこれまでの遅れを取り戻すことができたことから、予定通り得られた多孔性のゲルは水温変化による高速で屈曲―伸長し、非対称な屈曲部位を有する多面体を形成可能な多層ゲルフィルム、すなわち、2Dから3D変換可能な多層ゲルの開発を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、OEGMA-HEMAゲルと膨潤抑制剤としてエタノール等のアルコールを用いることにより高速で屈曲―伸長の二層ゲルの合成方法を確立することに成功した。ただし、多孔性ゲルを用いた場合、高速で屈曲―伸長する反面、平衡時の屈曲率が同等の非多孔性二層ゲルに比べ小さい欠点が見られた。H30年度は、ゲル内の拡散速度の遅いn-オクタノール等の長鎖のアルコールをアシル化剤の拡散抑制剤に用いた場合の生成した二層ゲルの屈曲性を検討する予定である。ここで得られた知見を基に高速で大きく屈曲―伸長する二層ゲルを開発するとともに、非対称な屈曲部位を有する2Dから3D変換可能な多層ゲルの開発を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度末に購入したガスクロマトグラフの分担額がなかなか決まらず、30,008円繰り越してしまった。次年度は、これを次年度の物品費にあて有意義に使用したい。
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